Side_Robin_5



「ナミ」

ロビンはその存在を確かめるように繰り返す。

航海士さん、ではなく、ナミ、という名前をひたすらに繰り返す。

あふれだしそうになる涙の代わりに。

漏れだしそうになる嗚咽の代わりに。

「ナミ……」

なんてわがままな心なんだろう。

名前を呼んでいるだけで満たされていた心はやがて、航海士のぬくもりを求めて騒ぎだす。

目の前の少女に手を伸ばせと、わめく心は早鐘を打つ。

ロビンは航海士の群青色の刺青に手を伸ばし、そっと触れた。

航海士の呼吸のリズムは変わらず、深い眠りについているのは目に明らか。

もっとも、仮に起きていたとしても、止められたかどうかはわからなかった。

「ナミ」

たいようのような髪の色を持つ航海士だったけれど、刺青の色は濃いブルーだったから、そこだけ冷たいような気がしていた。

けれど、触れる指先から伝わる熱は、刺青から上腕の骨をたどって肩甲骨、そして首の付け根へとなぞっていっても変わらなかった。

こんなこと、だめなのに。

いけないことだと、わかっているのに。

「ごめんなさい」

何の意味もない、謝罪の言葉のあと。

ロビンは身をかがめ、航海士の耳に触れるか触れないか、ぎりぎりのところまで唇を近づける。

「……」

もう一度名前を呼ぼうとして、けれどできなかった。

耳たぶぎりぎりに唇が近づいたところで、航海士の呼吸のリズムが変化したのが、わかったから。

ロビンは一度上半身を起こすと、航海士に背を向けて自分の体を横たえた。

航海士の呼吸のリズムは、もう、深く眠っているときのそれとは違って聞こえたけれど、起き上がる気配はなかった。

もしも、もう一度名前を呼べたなら、何か変わっただろうか。

名前を呼べない代わりに口づけたなら、何か変わっていただろうか。

どちらも、今となってはもう遅いけれど。

もしも航海士がいつものようにロビンを問い詰めてくれたなら。

背中を向けたロビンを自分の方に振り向かせて、ロビンを子ども扱いしては追い詰める意地悪な笑顔で問いかけてくれたなら。

自分は変われただろうか。

……わからない。

わからないけれど、ただもう一度だけ目を閉じて、口の中で反芻する。

たいようのような輝きを持つ、少女の名前を。

せめて、夢を見られたらいい。

ナミ、と呼びかけたロビンに。

ロビン、と名前を呼んで笑顔を返してくれる、航海士とのやさしい夢を。


[ 40/120 ]

[*前] [次#]
[目次]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -