Side_Robin_2
背中を見つめる視線は、幸せな片想いの視線なのだと、いつか読んだ本に記されていた。
背中を見つめて満ち足りる、そんな視線を向けることは、相手から見つめ返されることや、話しかけられることや、そういう見返りを期待しない視線だから、ある意味ではとても幸せな片想いの視線なのだ、と。
それならば、寝顔を見つめる視線もまた、片想いの視線といえるのかもしれない。
ただ、寝顔は打ち解けた相手にしか見せないものだから、背中以上のあまやかさは、あった。
それは今まで、自分には経験したことのないもの。
しかし、よくよく考えてみれば、自分の視線はいつも、ある意味では片想いの視線だったのかもしれない、とロビンは思う。
片想い、という言葉の響きがまとう純粋さやあまやかさからは程遠いにしても、ロビンが望んだことはすべて、かなわないことばかりだった。
あこがれ続けた、あたたかな家族への視線も。
笑い声をあげて遊んでいた、島の子どもたちへの視線も。
ロビンを決して仲間には加えてくれなかった博士たちに、必死に追い付こうと向けていた視線も。
探しつづけた、ポーネグリフという夢への視線も。
新しく『仲間』となってくれた、年若いクルーたちに向ける視線も。
いつもいつも、航海士の姿や声を追いかけてしまう視線も。
どこにも届かない、永遠の片想いの視線。
それでもいい、とロビンは思う。
片想いでもかまわない。
何もないよりは、ずっといい。
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