Side_Nami_3
「いいんじゃないの? 活字中毒の遺跡バカ。好きなものがあるのはいいことだし」
「それじゃあ航海士さんは、みかん大好き海図フェチ、かしら?」
みかん中毒海図バカ、と言い返せばいいのに。
ナミが『中毒』とか『バカ』とか、とても褒められたものではない言葉を並べても、人を傷つける可能性のある言葉を口にしないロビンを、ナミはたまらなくいとおしく思ってしまう。
「フェチって何よ、フェチって!」
「特定のものに異常な愛着を示すこと、ね」
それを言うなら、自分は間違いなくロビンフェチ。
「誰が辞書の意味を訊いてるか、っての!」
しかし、そう口にするのはたやすいことではなかったので、とりあえずロビンに軽くチョップをしてみる。
さっきおもいっきり照れさせられた仕返しもこめて。
いつぞやの、きょーいくてきしどー、みたいなものだ。
あのときは、まさかナミの方からこのおとなのおねーさんに『しどー』することになるなんて、考えもしなかった。
「痛い、わ?」
「……何で、疑問系?」
「とりあえず、反射的に『痛い』とは言ったけれど、ほんとうはたいして痛くなかったの」
痛くないならとりあえずの反応なのか、頭をさすりながら苦笑するロビンに、ナミも苦笑してため息をついた。
「なんなの、それ?」
それは、痛くたたかなかったのだから、当たり前のことだ。
ルフィたちになら、冗談やノリでたたくときにも本気でたたくけれど、ロビンを本気でたたく理由なんてこれっぽっちもない。
だからって、律儀に返答する理由だってないのに。
このかわいくてかわいくて仕方のないおねーさんをどうしてくれよう、と思っても、ため息をつく以外にできることはなかった。
「レディたち〜! 飲み物のおかわりはいかがですか〜?」
声の方向に視線を向けると、サンジがピッチャーを持って走り寄ってくるところだった。
てれをごまかすためにあっという間に空になってしまったジョッキを手持ちぶさたに持っていただけのナミには、いいタイミングだった。
それに、少し落ち着いて呼吸をしないと、息を吐くみたいに自然に「好き」と言ってしまいかねない。
ちらりと横目にロビンのジョッキを覗き込むと、その中身はナミが来たときから減っていないようだった。
そういえば、会話の中でもロビンが飲み物を口に運ぶところを見ていない。
「ありがと、サンジくん」
ナミはそう言ってサンジにジョッキを差し出すと、サンジはジョッキになみなみとラム酒を注いでくれた。
サンジも相当に酔っ払っているらしく、首筋まで赤くなっている。
ちらりとキャンプファイヤーの方へ視線を送ると、チョッパーが端っこの方に倒れていた。
「ロビンちゃんは?」
「私は少しずつ飲んでいるから大丈夫よ。ありがとう」
サンジに訪ねられたロビンは、笑顔で答えた。
その笑顔は、先程までナミに向けられていたやわらかい笑顔ではなくて、オールサンデー時代……いや、もっともっと以前から、顔にはりつける癖がついたに違いない、美しく完璧な微笑みで。
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