Side_Nami_2



「ちゃんと飲んでんの?」

今、自分の顔は間違いなく赤くなっている。

でもそれは、キャンプファイヤーの炎や手にしたグラスに注がれていたお酒がごまかしてくれるから、問題ない。

たぶん、ジャヤのあのときからだと思う。

『届いてますか、ロビンちゃん』

そう問いかけたナミの言葉は、確かにロビンの心の奥深いところを、揺らすことができたのだと思う。

ナミが問い詰めたり意地悪く試したりしなくても、せっかくロビンから少しずつでも『ほんとう』を見せてくれるようになったのだ。

自分自身、照れくさくてくすぐったくて、ロビンの肩でも腕でもぺしぺしたたいてごまかしたくなってしまうようなこの状況が、胸をあたためないわけがなかった。

「いただいてるわ」

ナミはロビンが両手に包んでいるジョッキを覗き込む。

「半分しか減ってないじゃない」

「お酒は、あんまり強くないの」

「えー、意外」

ロビンの言葉に、ナミは目を大きくする。

「なんかロビンって、どんなに飲んでも平然としてそう」

「そうかしら?」

そう言ってロビンは苦笑した。

その表情も、今までのひょうひょうとしたおとなのおねーさんではなくて、とてもやわらかい、穏やかな女のひとの笑顔。

……今更、絵に描いた初恋のような恋を、するなんて。

ナミはまたしてもむずがゆいようなくすぐったさを覚えて、目を逸らして口もとを手のひらで覆い隠すと、そのままロビンの隣に座った。

「しっかし、ロビンはほんとうに遺跡が好きなのね」

ナミは自分のてらいをごまかすように、昼間のロビンのことに話を切りかえる。

「そう?」

「うん。遺跡見てるとき、ロビンのほっぺに『私は遺跡バカです』って書いてあった」

あのときのロビンも、はじめてみるロビンだった。

歴史関係の本を読んでいるときも、真摯で思慮深いまなざしを紙に書かれている文字に落としているけれど、過去の都市の痕跡を見つけたときのロビンの瞳には、それに情熱が加わってきらきらしていた。

でも今は、月明かりを反射してかがやく深い深いオーシャンブルーの瞳は、ナミに向けられている。

「なあに、それ?」

ロビンは口もとに手をあてて、くすくすとやわらかく笑った。

その表情を見て、これ以上は危険だ、とナミは思う。

これ以上見ていては、実力行使にでてしまいそう。

好き、と言ってしまいそう。

でも、そうしたら、今、自分とロビンを包むやさしい時間は、確実に終わってしまうから。

この想いを口にすることなどできず、かといって、この場を離れたくもなかった。

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