Side_Nami_1



ありもしないものと思っていた空の世界へ死ぬ思いをしてたどりついて、空の島についてからも楽しんでいられたのはほんのひととき。

すぐにまたひどい目にあったというのに、この船のクルーたちはもう笑っている。

神だの裁きだの信じてはいなかったけど、そのせいで禁断の土地とやらの祭壇には連れていかれるし、ひとりきり船に残してしまったトナカイは大ケガをしたし、引き離されたルフィたちも傷だらけになっていた。

ついたばかりの頃は白い海やふわふわの島雲、ウェイバーやダイヤルといった空島ならではの道具に心がはずみもしたけれど、それ以上に命の危険を感じる羽目になったというのに笑っていられるのは、この船だからこそだと思う。

そんな危険も、過ぎてしまえばいいのだ。

この島に莫大な黄金が眠っているとわかったのはもちろんよろこばしいが、それ以上に、こうしてクルーみんなが笑っていられる時間があれば、それが何より。

海賊であるということは、明日も当たり前に続く日常なんてない生活を引き受けるということだ。

犯罪者だし、賞金首だし、卑劣で、暴力的で、嘘つきで、誰かから大事なものを奪うことをなんとも思わない極悪人として、憎まれ、追われ、争い、処刑される。

けれど、この船のあっけらかんとしたすがすがしいまでの明るさ、特に船長であるルフィのつきぬけた明るさは、この船のクルーばかりでなく、出会う人出会う人、時には自分たちを傷つけようとした人間でさえすくいあげてきた。

だからこそルフィに感化された人間、特に毎日毎日、この船で一緒に過ごすクルーたちは、過去への後悔や未来への不安に縛られることなく、今、この瞬間を等身大の自分で生きられるのだと思う。

楽しいときには笑って、悲しいときには泣いて、腹が立ったら怒って、うれしいときにはまた泣いて。

まさに感情そのままに生きて笑う、今はキャンプファイヤーに興じるクルーたちを遠巻きに見ているのは、「用のない火は消さなくちゃ」と言ったロビン。

騒ぎの輪の中に入らないのはいつも通りだったけれど、その笑顔が変わり始めたのは気のせいではないはずだ、とナミは思う。

今までは、騒ぐクルーたちをまぶしそうに目を細めて見ていたロビンの瞳にあるものは、諦感に見えた。

自分には縁のない世界。

自分には関係ない、近くにあるのに遠い世界。

その世界を欲しがるとか望むとか、そんな感情とは切り離されて、ただただまぶしそうに、いとおしそうに、憧れてやまないものを見る目。

でも、今日のロビンの瞳がたたえているのはそれだけではない、とナミははじめて思えた。

ナミは騒ぎの輪から離れて、そんなロビンに歩みよる。

近づくと、途中でナミに気づいたロビンは笑った。

ふわり、と、とてもうれしそうに。

草原に根をはった小さな小さな可憐な花のつぼみが、厳しい冬を乗り越えて、ようやく花開いたような、そんな心に咲くような笑顔で。

『ほんとう』にうれしそうに笑ったこの人は、ずいぶんおさない顔になるのだ。

そう気づいたら、ナミはどうにも気恥ずかしくなってしまって、歩きながら手に持っていたジョッキをあおってごまかした。

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