Side_Nami_4



ずっとずっと、『助けて』のひとことが言えない自分だったからこそ、わかることがある。

ときに『ほんとう』をひた隠すことでしか、自分の大切なものを守れないことがあるのだ、と。

きっとロビンが歩いてきた道も、そういう道だったのだろう。

何が、ロビンを傷つけない自分でありたい、だ。

そんなこと、ほんのちょっとも、自分の実感として持っていやしなかったのに。

ロビンの『ほんとう』が手に入るなら、多少の傷はいとわないと、そう思っている自分は間違いなく救いようがない。

でも、その傷を受け入れた先に広がる世界も、ナミはもう知っている。

その景色をロビンと見ることができたならば、どんなに幸せなのだろう。

「一応教えておくけど、ここは否定するところよ」

それでも、ロビンの思慮深い瞳が悲しみの青に揺れた気がしたから、ナミはこの膠着状態を脱するために口を開いた。

「そう、よね」

ふ、とため息を漏らすようにロビンは笑って、そう言った。

「じゃあ、練習しよっか、ニコ・ロビンちゃん」

ナミは場の空気をゆるめるように明るく言うと、もう一脚の椅子をががっと引き寄せて、ロビンのそばに座った。

「……どうして、フルネームなの?」

「何か問題あるの?」

「ない、けれど……」

「じゃあ、いいでしょ。それに、ロビンの名字って、響きがかわいいじゃない? ニコちゃんって、スマイリーマークのことだし」

ナミはテーブルの上に、指先でスマイリーマークを描いてみせた。

「つらくてもかなしくても、いっつも笑ってるけなげでかわいい女の子です、っていう名字。おとなのおねーさんのロビンとの、ギャップもいいじゃない」

ナミがにっと笑ってそう言うと、ロビンはわかりやすく視線を泳がせる。

こういう反応を見せるから、ナミだってあきらめきれないのであって、すなわち、あれもこれもそれも全部ロビンが悪いのだ、ということにしておくことにした。

そう、ポーカーフェイスなおとなのおねーさんに徹さないロビンが悪いのだ。

ナミの言葉にいちいち律儀に揺れてくれるから、ナミだってうれしくなってしまって、もっともっとかまいたくなる。

そうしてナミは、ロビンの『ほんとう』をまたひとつ、見つけた。

「じゃあロビンちゃん、こっち見て!」

ナミがロビンの頬に両手で触れて無理矢理自分の方を向かせると、ロビンは抵抗はしなかったけれで、目を伏せてしまった。

もう一回目を合わせるように言おうかと思ったけれど、ロビンの頬がかすかに熱を持ち、耳がほんのり赤くなってるのを見て、ナミはとてもとても満足してしまって、これ以上の意地悪はしないことにした。

「私は、本よりも、あなたたちの方が、大事なの。はい、りぴーと・あふたー・みー」

「……何かしら、それは?」

口では冷静を装ってかわいくないことを言ったって、耳は先ほどよりも更に赤くなっている。

表情も、どうしていいのかわかりませんと語るかのように、こわばっている。

ナミはもう、この意地っ張りなおおきなこどもがかわいくてかわいくてしょうがなくて、めちゃくちゃに抱きすくめてぎゅうぎゅうしなければ気持ちの持っていきどころがないくらいだった。

けれどさすがに、そんなことはできないから。

「いいから繰り返す。私は、本よりも、あなたたちの方が、大事なのです。はい」

「そんなことして……」

「航海士命令」

ロビンの言葉を遮ってナミが有無を言わせず言い放つと、ロビンはあきらめたようにため息をついた。

少し語尾を変えてあげたのは、普段の口調のままでは言いにくいかと思っての、ちょっとした優しさだ。

ロビンはゆっくりと、ナミに視線を合わせてから口を開いた。

「……私は、本よりも……あなたたちの方が、大事、なのです」

ああ、やっぱりダメだ。

あきらめるなんて、とても無理。

航海士命令なんて、こんなときには何の強制力も持たないのに、それでも律儀にナミの言葉にこたえてくれたロビンをあきらめるなんて、できない。

「もう、いいでしょう?」

ロビンは小さな声で早口に言うと、ナミの手をそっと下ろして目を伏せた。

「よくできました!」

ナミはそう言って笑うと、ロビンの頭をこどもにそうするようにわしわしなでた。

髪の毛がぼさぼさになっていくのに、ロビンはうつむいてされるがままになっていた。

言えないのなら、言わせてあげる。

『ほんとう』のことほど言えなくなるなら、言う理由を作ってあげる。

だからロビン。

いつかあたしを求めてよ。

どんなに時間がかかってもいいから。

そんな願いをこめて、ナミはロビンの頭をなで続けた。

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