Side_Nami_3
「これ、サンジくんから」
ひとまず手にしていたマグカップをテーブルの上に置くと、ロビンはゆっくりと視線をカップに移し、再びナミへ戻した。
「ありがとう」
「あたしじゃなくて、サンジくんに言って」
「もちろん、コックさんにも言うけれど……」
そう言うと、ロビンは穏やかに笑う。
「持ってきてくれたのは、あなただから」
またやられた、とナミは思う。
「……そ」
特技『暗殺』はだてじゃない。
ロビンは自分の表情が、言葉が、どんなに的確に他人の心を撃ち抜いているのか、わかってやっているのか。
そう問い詰めたくなる。
「それで?」
「それでって、どういうこと?」
マグカップに手を伸ばしながら尋ねたロビンに、ナミは問い返す。
「コーヒーは、ついででしょう? 本題は何かと思って」
「ああ……」
ロビンはコーヒーを一口口に含んで飲み込むと、「おいしい」と小さな声で言った。
「今夜は宴になるから、ロビンも参加するように命令しにきたのよ」
「命令?」
「命令しないと、ロビンは本を優先しちゃうかと思って」
意地悪く笑っていうと、ロビンは苦笑した。
「私、そんなに本ばかりに見えるかしら?」
「そうね、少なくともあたしたちよりは大事そうに見えるわよ」
冗談めかして言ったつもりの皮肉だったのに、ロビンはマグカップを口に運ぼうとした手を止めてしまった。
ああ、自分は今、たぶん、またロビンを傷つけた。
そうわかったのに、何故だろう。
ナミの心にわきあがったのは、後悔とはとても似つかない感情だった。
ロビンは何も言わずに、コーヒーにその思慮深い目を向けている。
ロビンが何も言えないことさえ、ナミを満足させた。
だって、わかってしまったから。
ロビンが「そんなことないわ」と言えないのは、それが『ほんとう』のことだからだ。
もしもロビンがこの船のことをなんとも思っていなかったら、きっともっと簡単に嘘をついたように思う。
もしも本の方がクルーたちよりも大事だったら、ロビンは傷ついたりしなかったと思う。
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