Side_Nami_1
一緒にメシを食おう、とのモンブラン・クリケットの言葉を、船のキッチンにいるサンジに伝え、ナミはそのまま女部屋に向かった。
買ってきたばかりの本が読みたいからと、情報収集を任せて女部屋に引きこもってしまったロビンに、宴には出るように、と伝えるためだ。
モンブラン・クリケットの情報をつかんできた張本人であるくせに、早く買ったばかりの本を読みたいというはやる気持ちを押さえられないロビンは、いつものおとなのおねーさんではなく、純粋なこども。
そんなおおきなこどものために、ナミの手にはサンジから渡されたマグカップが握られている。
中身もこどもらしくオレンジジュースにでもしてやろうかとも思ったが、たとえ中身を変えたところで、いつもと同じ穏やかなほほえみでもって「ありがとう」と言われるのは目に見えていたから、皮肉るだけ無駄というもの。
「入るわよー」
とりあえず声だけかけて、返答を待たずにナミはドアを開けた。
椅子に腰かけたロビンは、ナミの方をちらりとも見ずに読書を続けていた。
人の気配や物音に敏感なこの女が、いくら大好物の本を与えているからといって、ナミが部屋に入ってきたことに気がつかないわけがない。
つまりはわかっていて、ナミよりも本を優先しているということで。
それもまたわかりきっていた反応ではあったが、予測できていたからといって、予測通りになった現実に腹がたたないわけではなかった。
「ロビン!」
乱暴にドアを閉めて名前を呼ぶと、ロビンは本から顔を上げないままに「なあに?」といつもの調子で返してくれる。
まったくもって、何もかもが予想通り。
そうされると、かきまわしたくなるのが人のサガというものだ。
「人に話しかけられたら、まず目を見る!」
「あ……」
ナミはロビンの目の前に立って、本を取り上げた。
それでもまだロビンの目は、取り上げられ、閉じられた本を名残惜しそうに見つめている。
「それが人と話す時の礼儀ってものよ。わかった?」
「……わかったわ」
自分よりもよほど言葉遣いが丁寧で物腰も柔らかいロビンにそう言うのは、どう考えてもおかしなことだと自覚していたけれど、ロビンは反論はすることなく、目を伏せてため息混じりにうなずいた。
「それで、何かしら?」
ロビンの目がようやくナミの方を向いたこと、それだけで満ち足りる自分も、確かにいるのに。
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