Side_Robin_5
「で、何でチョッパーと愛について語ることになるわけ?」
「童話のような短編を集めた、あなたの本があるでしょう?」
「……あったっけ?」
航海士は記憶を探るように、視線を宙にさまよわせる。
「『花束をキミに』。いろいろな花の挿絵が入った本よ」
「んー……そういえば、あったかも」
本の題名にぴんとこない航海士を見て、少し落胆している自分にロビンは気づいた。
「その本を、船医さんに貸さなかったかしら?」
「そういや、この前チョッパーがなんか借りてったような……」
でも、何故そんなことで自分は落胆しているのだろう。
航海士に視線を落としても、そこに答えがあるわけではない。
「その中の花の名前を訊かれたの」
「ふぅん」
「ひまわり、だったわ。そのときに、ひまわりの花言葉を教えたの」
「花言葉、くわしいの?」
「くわしいというほどではないけど、メジャーなものなら」
「まあ、ロビンは花の匂いがするもんね。うん、似合うわよ。花言葉にくわしいのって、ロビンにすごく似合うと思う」
そう言って航海士は本の上におかれたロビンの手を取り、顔に近づけて、すん、と鼻を鳴らした。
……息が止まるかと、思った。
口づけを、されるのかと思った。
心臓がどくどくと耳の中で打ち付けるように鳴り響く。
「……そうかしら?」
そう、詰まった声で返すのがやっとだった。
何を馬鹿なことを考えたのか。
だいたい、仮に航海士の唇が自分の手に触れたからといって、それがなんだというのだろう。
「で、ひまわりの花言葉は?」
けれど航海士はロビンの手のひらを離すわけでもなく、その頬にくっつけて「冷たくてきもちいい」などと言うものだから、早まりだした鼓動がもとの速度に戻ることもなかった。
手のひらに触れる熱は、まぎれもない航海士の体温だけれど、36度よりは高い気がする。
「『あこがれ』、『あなただけを見つめる』、『愛慕』。そう教えたら、愛慕の意味を訊かれたの」
「なるほどねぇ。ちっちゃいトナカイは何かと得だわ。そんなこっぱずかしい質問、チョッパーにしかできないわよ」
そう言って航海士はけらけらと笑った。
「で、あんたは何て答えたの?」
「わからない、と」
「あ、そ」
28にもなってわからないなんて、と答え方を咎められるかと思ったけれど、航海士の反応はあっさりとしたものだった。
「で、あたしなら何て答えるのかを訊きたいわけ?」
航海士はロビンの内側を簡単に見透かして言う。
「お見通しね」
肯定しながら航海士の髪をなでると、航海士は猫がなでられたときのように、心地よさそうに目を細めた。
航海士ももう、ロビンの手を怖がらない。
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