Side_Robin_4



夜の船番は今日も認められなかった。

昼間に少し眠ってしまったから眠れそうもないし、と付け足してみたけれど、航海士は首を縦には振らなかった。

船に乗った日の夜のように、「信用できない」と直接的な言葉で断られることはなくなったけれど、いつも航海士はなんとなくうやむやにしてしまう。

一見、クルーたちはもう、ロビンがこの船にいることに何の違和感も抱いていないように見える。

それでもやはり、心の奥底では気の許せない部分があって、船番を任せてもらえないのではないかと考えて、そう考えた自分に苦笑した。

信用なんて、されなくて当たり前。

おかしいのは、かすかだけれど気になってしまうささくれのような痛みに、この心が揺れること。

今までだって、どの船もどの組織も信用してこなかったロビンが、たった1週間と少し乗っただけのこの船に信用されないことを気にするのは、とても不当なことに思える。

ロビンは短く息を吐くと、膝の上に広げた本から視線を上げた。

視線の先には、航海士の横顔。

彼女が航海日誌を書いているから、ロビンはその邪魔にならないように、ベッドの壁側で足を長めて本を読んでいた。

いつもロビンを揺らす琥珀色の瞳は、机の上に落とされている。

いつもロビンを揺らす言葉を紡ぐ唇は、きゅっと一文字に結ばれている。

いつかの夜、砂浜でロビンに触れた指先は、今はペンを握っている。

「何? そんなに見つめちゃって」

そんなロビンの不躾な視線に知らないそぶりをしてくれる航海士ではない。

航海士はその意志的な瞳で、『ほんとう』の言葉で、ためらいなくロビンの中に切り込んでくるから。

「気になることでもあんの?」

航海士は日誌を閉じて、ロビンの方へ向き直った。

「日誌は終わったの?」

「日誌が終わったかどうかを、訊きたかったの?」

航海士が試すように笑う。

「いいえ」

そのくるくる変わる表情を見ていて思った。

もしも航海士なら、昼間ロビンが答えられなかった質問になんと答えるのだろうか。

「じゃ、何よ?」

航海士は立ち上がってロビンの方へと歩み寄ると、そのままロビンの隣に寝転がり、腕を上に伸ばして背伸びをした。

「今日、船医さんに訊かれたの……愛するって、どういうことかって」

「はぁ?」

航海士は「何を言っているのか」とでも言いたげな、訝しげな表情でロビンを見上げた。

「何であんたとチョッパーが話してて、そういう流れになるのよ」

「……あなたが、よしよしなでなでしろって言ったから」

軽口のつもりでそう言ったら、航海士はきょとんとした顔でロビンを見上げた後に、声を上げて笑った。

「なあに? そんなに変なことを言ったかしら」

冗談のつもりではあったが、大笑いするほどのことでもない。

だからロビンがそう尋ねると、航海士はロビンの方に体ごと向き直った。

「ロビンってさ、ほんと、変なとこ律儀よね」

「律儀?」

「かわいいって言ってんの!」

「……っ、からかわないで」

今まで言われた種類のない言葉を聞かされて、頬が熱を持ち出すのは自分でもどうにもできなかった。

うつむいたところで、こちらを向いて横向きに寝転がっている航海士の目線は、ロビンを下から見上げるものだ。

手で頬を押さえたところで、赤くなっていると伝えているようなものだし、どこにも逃げ場はなくて、ロビンの選択肢はもう、目を逸らすことだけ。

「からかってるわけじゃないけど、ま、そう思いたいならそれでいいわよ」

そう言って笑った航海士の顔は見ることができなかったけれど、声はとてもやさしかったから、「思いたいとか、そういう問題じゃないわ」とか、そういう反論は口にすることができなかった。

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