Side_Nami_6



手を伸ばしてくれさえすれば……

この船なら、ロビンが長い時間身を置いてきたあきらめと終わりの世界から、ロビンをすくいあげることができるのに。

少なくともナミは、届けたい想いをこめて、手をめいっぱい伸ばしていたのに。

それなのに、ロビンがあきらめと終わりの世界から抜け出す気がないようにしか見えないことが、ナミを一番苦しくさせた。

だってロビンは、差し伸べたこの手に、気づかないふりをしている。

ロビンは、何もかもを捨ててきた自分のままでいることに、何の疑問も抱いていない。

この世界がロビンにとって、何も与えない世界であることに、何の疑問も抱いていない。

むしろ、得ることをこそ畏れているように思える。

得るものは、いつか捨てるものだから。

なんて厄介な女に惹かれてしまったのだろう。

でも、始まったら最後。

もう自分ではどうにもできない。

それが恋とか愛とかいうものであるとして、だからこそ、ふたりの間に横たわるのは絶望だ。

あきらめたふりをしても、何もないふりをしても、姿が見えなければ探してしまうし、見つければ声が聞きたくなるし、笑わせたくなったりして。

でもその瞳はナミに何も求めてやしないから、すごくすごく悔しくなって、八つ当たりをしてみたところでやんわり受け止められて。

きっと傷つけたって、律儀にその傷を引き受けて、こっそり痛がって、それだけに違いなくて。

でも、ふとした瞬間に見せるロビンの『ほんとう』が……困ったように眉を下げて笑う表情や、ナミの言葉に照れてしまったときに逸らされ伏せられる目や、賑やかなクルーたちを憧憬のように見つめる深い悲しみに満ちたまなざしや、本を読んでいるときの真摯なオーシャンブルーの瞳や、ナミの言葉ひとつひとつを飲み込んでは苦しそうに息を吐く様子が、まるでナミの体の中に咲いたハナの手が直接心臓をつかむように、胸をしめつけるから。

だからナミは、もうどうしようもなくなって、ふたりの間に横たわる絶望をうめるのは体温しかないと思って、めちゃくちゃに抱きすくめたくなるのだけれど、実行に移すこともできなくて。

だってナミがロビンにそれを差し出せと言えば、ロビンはためらいなく差し出すに違いないから。

ナミが与えたいと思うものを、受け取ってはくれないくせに。

そして、他のクルーがナミがロビンに求めているものと同じものを欲したとしても、ロビンは同じように差し出すに違いないのだ。

それがナミを苦しくする。

それがナミを絶望させる。

ロビン。

あんた少しは気づいてる?

ロビンの姿を目で追っては、問いかけたくなる。

あたしはもう苦しくて苦しくて、叫びだしそうよ。

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