Side_Nami_5



それ以来、ナミはこの気持ちが受け入れられることはあきらめているし、期待もしていないのだと、自分に言い聞かせている。

それは勿論、ロビンと自分が同じ女である、ということもあるけれど、それ以上に絶望的なのは、ロビンが何もこの船に望んではいないとしか思えないことだった。

ロビンが唯一見せた望みは、ルフィに対して「仲間にして」と言ったことだけ。

その望みが叶えられた後にはもう、クルーたちを見るロビンの瞳は、何も欲しがらない瞳になっていた。

何もこの世界に期待していない、ただ終焉の時を待つだけの瞳だった。

バカみたいに騒ぐクルーたちを、穏やかな笑顔で見ていることも多いけれど、その輪の中に入ってくることはない。

それが、ほんとうは輪の中に入りたいのに言い出せない、不器用な子どもが見せるようなものだったら、たぶん、ナミはあきらめずに済んだ。

年の離れたクルーを子ども扱いして、あたたかく見守るおねーさんの目だったとしても、あきらめずに済んだと思う。

でも、ロビンが見せるのは、そういった類いのものではなかった。

何かを望む瞳ではなく、ただただ憧れ続けたもののように、夢見続けた別の世界のように、自分とはまるで関係のないものを苦しそうに見ている瞳だった。

……凍りついていた心は、とかされつつあると思う。

波ひとつ立たなかった心の水面には、確かに波紋が広がっている、と思う。

ナミやクルーの言葉や笑顔は、間違いなくロビンの心の岸辺に打ち寄せている。

たぶん、問い詰めれば、ロビンは認めるだろう。

何を考えているのかわからない女だと思っていたけれど、実際に話してみると、ロビンはナミやクルーたちの言葉や笑顔を大事そうに受け止め抱きしめては、苦しそうにしていた。

だから、言葉では認めなかったとしても、瞳で、表情で、声音で、仕草で、態度で、きっとわかる。

わかってしまう。

でも。

『たしかに私の心はとかされたわ。私の心の水面は揺らされて、あなたたちの言葉も笑顔もちゃんと届いている。欲しがれば与えられることも、わかっているの。でもね。私は、このままでいいの。このままで、いたいの』

口には出さなかったとしても、ロビンがそう反応することを、ナミはほとんど確信していた。

そう言われてしまったら、もうできることなどないではないか。

行くあても帰るところもない、と言っていた。

8歳から様々な悪人に従って身を守ってきた、と言っていた。

ロビンがこの船に持ってきたのは、数冊の本とノートだけ。

ロビンが過去の話をすることはない。

ロビンがクルー以外の誰かの話をすることはない。

手紙など、外部の誰かと連絡をとっている様子もない。

あとには本とノートと記憶しか残らないほど、人生で出会ったり手にするはずだったものの多くを捨ててこなければならない人生だったのではないだろうか。

だからロビンは、あんなにも何もかもをあきらめた顔を見せるのではないか。

何も欲しがらずに、それどころか言われたものは何でも差し出して、それでも穏やかに笑っていられるのではないだろうか。

そう思えてならなかった。

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