Side_Nami_4
たぶん、近づくことを焦りすぎたのだろう。
何故そんなに焦っているのかもわからないうちに、じれったがっては近づき過ぎたのだろう。
夜の浜辺で本を読んでいるロビンに話しかけ、触れようとした手を振り払われて、自分がひどく傷ついていることに気づいてしまった。
別に、たいしたことじゃなかったのに。
自分から「仲間に入れて」と言ってはきたものの、ロビンが仲間になってからはまだ数日しか経っていない。
20年間政府から逃げ続けてきたロビンが、他人の手を警戒するのは、当然のこと。
だからすごく傷ついたし悲しくもあったけれど、その感情は無視した。
そんなに警戒しなくてもいいじゃない、と思い直して、あんたがそんなに警戒するならあたしの『ほんとう』をあげるわよ、と思って。
言葉を投げかけながらロビンの頬に触れた時に、その頬に触れた指先があまりにも熱くて。
なんだか無性に泣きたい気持ちになって、そのまま引き寄せそうになって、わかった。
ロビンの心を覆う何か氷の壁のようなものをとかして、いつかロビンも『ほんとう』のままでいられたらなんて、そんな悠長なことを言っていられる段階は、とうに通り越してしまっていたのだ、と。
今度はもう、わかってしまったその気持ちを、無視することはできなかった。
ごまかしようがなかった。
何故だか分からないけれど、この船に乗ってからまだ日の浅いロビンを、ナミは自分の心の真ん中に置いて、そこから離したくなくなっていたのだ。
それは同じ女性クルーとしての親しみとか、近しさとか、連帯感とか、そんな当たり前の感情を、とうに飛び越えたものだった。
気づいたときには手遅れだった。
まずいな、と思った。
言葉だけで、笑顔だけで、安らぎやなぐさめや救いを与えられるような、そんな『やさしい人』では終わりたくなくなっていた。
ナミはロビンの孤独を、他の誰でもない自分の36度の体温でうめたいと、そう思うようになっていた。
そうして自分勝手に、自分だってロビンの体温がたまらなく欲しいと、そう思っている。
こんなの、どうしようもない、と思うのに。
どうしようもなく、行き止まりの恋だ、と思うのに。
ロビンの抱えた孤独が届いてしまったのは、間違いなく自分だ。
心の岸辺にたどり着いて、氷の壁がとけたその先に、膝を抱えてうつむいている小さなロビンを見つけたのは、間違いなく自分だ。
そうして、その急激な変化にロビンが戸惑って、苦しくなっているうちに、もう『ほんとう』でも『ウソ』でもどっちでもかまわないから、どうにかロビンを手に入れることができないか、と思ったのも、間違いなく自分だった。
なんて、あざとい……
そう思ったら、身動きがとれなくなった。
そして、なかったことにしようと思った。
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