Side_Nami_3



暗殺はあんまり得意じゃなくて、『悪いやつ』でもないロビンは、人の中に入り込むのは得意らしい。

様々な組織を渡り歩いてきた、と言っていた。

色々な悪党に従うことで身を守ってきた、とも言っていた。

その中で身に付いた処世術なのだろうか。

何事も器用にこなすオールラウンダー。

知識も力も、求められれば差し出す。

かといって、その知識や力におごることはなく、常に穏やかに笑っていて、誰も傷つけない。

そのくせ、他人には何も求めない。

何と都合のいい、便利な人間か。

バロックワークスでは副社長もつとめていたとのことだし、様々な場所で重宝されたことだろう。

しかも、滅多にお目にかかることが出来ないクラスの、品のある美しい女性。

完璧、という言葉が、これほど似合う人間もいないのではないか、と思えるほど。

でもそれは、ロビンの『ほんとう』じゃない。

『ほんとう』を押し殺して仮面をまとった、見せかけの姿だ。

その仮面の下から、時々ロビンの『ほんとう』が見透かせるようにはなっている。

でもその『ほんとう』は、ナミにとっては何の希望にも救いにも結びつかない『ほんとう』だった。

自分から「仲間に入れて」と言って、せっかくこの船に乗ったというのに、何もかもをあきらめたような顔をして笑うロビン。

この船に何も望んではいないくせに、何も欲しがらないくせに、自分の持っているものは何でも与えようとするロビン。

そんなロビンを見るたび、むかついた。

だから、あんたが欲しいものを欲しいと言えないのなら、あたしが言わせてやるわ、と思って。

あんたがこの船のクルーたちの心に寄り添うつもりがないのなら、あたしがあんたの中に飛び込んでやるわよ、と思って。

何故そんなにいら立ちが募るのかも分からないままに、ロビンがこの船に望んでいることを何でもいいから見つけたくて、近づいては挑発した。

ロビンの何もかもをあきらめて凍りついた心の岸辺に泳ぎついて、笑ったり怒ったりからかったりわめいたり説教をしたり、とにかく騒いでやろうと思っていた。

けれど、結果は……

雪解けの季節。

そんなに穏やかなものじゃない。

北風とたいようの童話。

北風が冷たく強い風で無理矢理脱がせようとして、できなかった旅人のコートを、たいようがその日差しであたためることで自ら脱ぐようにしむけたなんて、そんなになまやさしいお話じゃない。

氷がとけるには時間がかかるものだ。

火で熱すれば早くとけるには違いないだろうが、それではあまりに熱すぎて、痛みを伴ってしまう。

ナミはロビンを傷つけたいわけではない。

だから、春に近づくにつれ、ゆっくりと雪がとけていくように。

同じ船に乗る仲間として、少しずつロビンの心をほぐしていくはずだった。

そうしていつか、与えるだけのロビンじゃなくなって欲しいと思った。

望めば手に入るものがあって、それはこの船にいたからこそ得られるものだったのだと、ロビンがいつか思えるようになればうれしいな、と思った。

でも、それは傲慢な建前できれいごとに過ぎないのだと気づかされるのに、そう時間はかからなかった。

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