Side_Nami_1
新しい海域の海図製作が一段落ついて、進路の確認がてら外の空気でも吸おうと思い、ナミは甲板に出た。
そこで見つけた光景が、あまりにも平和的過ぎるものだったから、思わずナミは足を止めてしまった。
ほとんどいつもと変わらない甲板の風景の中に、不意に見つけた非日常。
ルフィやウソップがのんびりと釣竿を垂らしているのは、いつもの光景。
船縁に寄りかかってゾロがいびきをかいているのも、いつもの光景。
問題は、デッキチェア。
甲板に置いたデッキチェアは、雨の日以外に片付けられることはなく、読書好きの考古学者が常にコーヒーを片手に本を読んでいた。
それもまた、この船の日常。
でも今日は、その考古学者は穏やかな昼下がりの日差しの下で、かわいらしいトナカイを膝の上に乗せて目を閉じていた。
どうやら、トナカイだけでなく、ロビンもしっかり寝ているらしい。
ナミがこれだけ見ていれば、チョッパーはともかく、他人の気配や視線に敏感なロビンはすぐに気づくはずだ。
そうしていつもの穏やかな調子で、「なあに?」と問いかける。
それが何の反応もせずに目を閉じたままだということは、やはり眠っている、ということだ。
確かに、今日の天気は昼寝にはうってつけだ。
日差しの気持ちのよさに、まどろむのも自然の摂理。
そうは思っていても、ナミの隣では浅い眠りを繰り返すことしかできないこの女が、他のクルーに囲まれたこの場所で安眠をむさぼっていることに、いら立ちを覚えるのはどうすることもできなかった。
いや、いら立ちどころではない。
怒りに近いけれど、もっと暗いもの。
悔しさだったり、憎らしさだったり、かなしさだったり、さみしさだったり、やりきれなさだったり、そんなマイナスの感情が、自分の中をぐるぐると渦巻いている。
つまりは、嫉妬だ。
しかし、慢性的に睡眠不足らしい考古学者が眠っているのを起こすこともできず、ナミは進路の確認をした後、そのままみかんの木の方へ上がることにした。
それ以上に、ナミは最近自分の心を嵐のように駆け巡り、焦げつかせるその感情に、疲れきってもいた。
自分の胸に渦巻くどろどろとした物想いとは反対に、みかんは今日も日の光を浴びてすこやかに成長しているようだ。
その幹にそっと触れ、目を閉じてため息をつく。
そうすると、年齢よりも大分幼く見える、先ほど見たばかりのロビンの寝顔が鮮やかにまぶたの裏に浮かんで、はっとして目を開けた。
こんなはずじゃ、なかったのに。
その思いがぬぐえない。
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