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ウォーターセブンを後にして、最初に立ち寄った島は無人島。
春島のあたたかな陽気に誘われて、男性クルーたちはゾロを船番に残して食料調達兼探検へと出かけた。
人の気配のない島では、遠く近く、鳥の鳴き声が時折聞こえるばかりだ。
「何してんの? こんなとこで」
船を寄せた岸辺から、少し進んだ先に広がっていた草原には、あたたかな風が吹きわたっていた。
その草原にたたずんでいたロビンに、測量から戻ってきたナミが声をかける。
ロビンはナミの方へと顔を向けてほほえんだ。
「ここなら、サニー号でのガーデニングによさそうな花が見つけられそうでしょう?」
「そういえば、そうね」
ナミはぐるりと周囲に視線をめぐらせながら、ロビンに歩み寄る。
草原には色とりどりの春の花が咲き乱れていた。
花を踏まずに歩くのも苦労するぐらいだ。
「いっぱい選んで、たくさん植えたらいいわよ」
ナミはロビンの隣に立つと、ロビンを見上げてそう言った。
「春の花も、夏の花も、秋の花も、冬の花も、好きなだけ植えたらいいわ。たくさん植えておけば、天候も季節も変わりやすいこの海でだって大丈夫でしょ」
「そうね」
ロビンはうなずいてその場にしゃがみこむと、足元に咲いていた小さな花を1本手折った。
「さっそく選ぶのが、それなの?」
そんなロビンを見て、ナミは苦笑した。
「ぺんぺん草じゃない、それ。もっときれいなの、いっぱいあるのに」
「小さな花もきれいよ?」
ロビンはそう言って、手にした白く小さな花をナミに差し出す。
ナミは受けとると、そのハート型の実の部分をひとつずつ指先でつまんでは、下に引っ張りはじめた。
「知ってる? ロビン」
ハート型の実のほとんどが茎からぶら下がると、ナミはその花を持ったまま、ロビンのサイドの髪を耳にかけた。
「ナズナの音遊び」
そうして、あらわにされたロビンの耳元で、ナズナをくるくると回すように揺らす。
ハート型の実と実がぶつかりあって、かすかだけれどかわいらしい音がした。
ロビンはそんなナミを、目を細めて見つめる。
そうして、少しの沈黙のあと、おもむろに口を開いた。
「……好きよ、ナミ」
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