Side_Robin_6



その涙をぬぐおうとナミの目尻に手を伸ばそうとした瞬間、ナミはロビンの背中に腕をまわしてぎゅっと抱きついてきた。

「……ほんとに、ずるいよ」

ロビンの服で涙をぬぐうように、鎖骨に額をこすりつけるようにして、くぐもった声でナミは言う。

「ずるいし、勝手だし、ほんとに……しょうもない」

そう繰り返して、ナミはロビンを抱きしめる腕に力をこめた。

だからロビンもナミを抱きしめ返して、オレンジ色の髪の毛を鼻でくすぐった。

その香りが鼻に届くたびに、いつもいとおしさをつのらせた、みかんの香り。

「ひどい言われようね」

小さく笑いながらそう言葉を返すと、ロビンにすがりつくナミの腕にはますます力がこもった。

もう二度とロビンを離すまいとするその力がいとおしさを呼び起こし、この胸を満たしてゆく。

同時にその力は、ロビンにやすらぎを与えるものでもあって。

だからロビンの口もとには、自然とほほえみが浮かんでいた。

「そんなしょうもないあんたに、付き合ってあげられるのなんて、あたしぐらいよね」

そんな勝ち気なナミらしいセリフも、震える涙声では嫌味になんて聞こえない。

「そうね……こんなしょうもない私に付き合ってくれるのは、あなたぐらいだわ」

ロビンがほほえみながらそう返すと、ナミは背中にまわした腕の力をゆるめ、けれどまわした腕をほどかないままに、少しだけロビンから上半身を離した。

「何あっさり認めてんのよ」

あきれたように笑った顔は、涙に濡れて、鼻を赤くした幼い表情。

でも誰よりも頼りになる、ロビンをそのあたたかなやさしさと想いで包み込んでくれる、いとおしいひと。

「ずるくて、勝手で、しょうもない私の言葉じゃ、信じられないかしら?」

「信じられない。言葉だけじゃ」

子どもがだだをこねるような調子で言ったナミの唇に、触れるだけのキスを落とす。

「……短い」

子どものように頬をふくらませたナミとの会話は、もう、想いが通じあった恋人どうしのあまやかなものと一緒なのだと思うから、ロビンは十分に満たされて。

けれどナミにはまだまだ、ふたりの想いを形にするには足りないようだった。

それだけロビンは待たせたのだから、仕方ない。

待たせた分だけ……待っていてくれた分だけ、想いを返せる自分になりたい。

「唇へのキスは、『愛してる』のキス」

不満げな表情をしたナミにロビンが言うと、ナミは少し驚いた顔をした。

「それから」

その表情にはかまわずに、ロビンはナミの左手を取ると、その薬指にもキスを落とす。

「これは誓いのキス。私はあなたのためだけに生きるわ。あなたのそばに一秒でも長くいるために、あなたよりも先に死なないようにあがき続ける。あなたが私の、望みだから」

ナミのコハク色の瞳には、一度は止まりかけた涙がまたもたまってゆき、まばたきと同時に目尻からあふれて頬を伝った。

あなたを泣かせるのは不本意だけど、うれし涙なら、いいわよね?

「最後に」

その涙をそのままに、ロビンはナミの手のひらに口づけて、自分の頬にあてがった。

36度よりも少し高めの体温が、ロビンの頬をあたためる。

他の何よりも、心安らぐぬくもり。

それと同時に、他の何よりも胸が高鳴る温度でもある、ナミの体温。

「手のひらへのキスは、懇願のキス。私の想いを受け止めて、あなたにも誓って欲しいから」

ロビンのそばにいる、そのためだけに、1秒でも長く生きようとあがく、と。

「あなたにも、私のために、生きて欲しいから」

そうして、1秒でも長く。

私を愛して。

その言葉は、ナミが重ねてきた唇に飲み込まれたけれど、間違いなく伝わったと思う。

だから私も、1秒でも長く、あなたのそばにいるために。

あなたをこの世界にひとりきりにしないように。

生きられる強さを持ちたい。

そうして、いつか。

あなたに愛されたこの命さえ、いとおしむことができたなら……

それが、私が生かされたこの世界への、ただひとつのこたえ。



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