Side_Robin_3



「ただいまー」

夕食前の時間になって、航海士が女部屋に帰ってきた。

窓から差し込むオレンジ色の夕日が、手にたくさんの本を抱えている航海士を包み込む。

航海士は今日、アイスバーグ邸に船の構造にかかわる本をもらいに行っていた。

航海に役立つものがあるかもしれないから、と。

「手伝うわ」

ロビンは読んでいた本をテーブルの上に置き、立ち上がった。

航海士が腕に抱えていた本の半分ほどを受け取り、机の上に置く。

「ありがと」

航海士はやわらかくほほえんでそう言ったけれど、ロビンの方をしっかり見ようとはしなかった。

……今日こそは伝えなければと、そう思っていた。

エニエス・ロビーでの戦いの前に、すでにロビンに想いを伝えてくれていた航海士は、ウォーターセブンに帰ってきてからは、ふたりの関係について触れようとはしなかった。

あれだけのことをしたのだ。

ロビン自身、一味に戻ってすぐにすべてがうまくいって、ふたりが胸に抱きぶつけ合い続けたこの想いに幸福な結末が訪れるなんて、都合のいいことを考えていたわけではない。

自分勝手な行動をしたロビンを仲間としては許せても、航海士がロビンに向けてくれていた特別な想いの部分が、『こんな勝手な人間を想い続けてゆけない』と、許してはくれないかもしれない。

それでも、航海士が何かしらのアクションを起こしてくれることに期待していた自分は、やはりまだまだおろかしいということなのだろう。

だが、以前のロビンなら、自らのおろかしさを理由に航海士に手を伸ばすことをあきらめていただろうけれど、今は自分から手を伸ばさなければ、何も手に入らないことを知っている。

ロビンがからっぽだったのは、この世界に何も望まなかったロビン自身の心のせいだったのだと、わかっている。

だから『もう付き合いきれない』と、たとえ拒絶されることになったとしても、自分からこの想いを伝えて手を伸ばさなければならないのだと……それが航海士がずっと抱え続けてくれた想いに報いることなのだと、そうも思ったから、今度は自分から動き出さなくてはならないのだと思った。

それでも簡単には決意を行動に移すことができなくて、ただ見つめるばかりの時間を幾日か過ごしてしまったけれど。

今日こそは、伝えなければならないのだと思っていた。

「結構役に立ちそうな本があって、目移りしちゃったわ。荷物持ち、誰か連れていけばよかった」

「私がついていけばよかったわね」

「ロビンは怪我人なんだから、力仕事なんてしないで休んでないと」

航海士は苦笑してロビンにそう言った。

「全員怪我人よ。誰が行っても変わらないわ」

ロビンが言葉を返すと、「それもそうね」と航海士は肩をすくめて答えて、ロビンに背中を向けてドアの方へと歩き出した。

その背中を見送ることしかできない自分から、そろそろ抜け出さなくてはならない。

動き出すのは、ロビンだ。

航海士が根気強くロビンに想いを伝え続けてくれていたのと同じように、想いを伝えるのはロビンの番なのだ。

「航海士さん」

呼びかけた声は、震えた。

心臓は早鐘を打ち、ここから逃げたいと……ふたりの関係に結論を出すことから、拒絶されることから逃げたいと、わめいている。


想いを伝えることが、こんなにも勇気がいることだなんて。

そう思って、今までロビンに想いを伝え続けてくれていた航海士の強さを改めて実感した。

「話がある……」

「あたしさ」

ようやく言葉を吐き出したロビンを遮って、航海士はドアの前で立ち止まってそう言った。

「わからなくなっちゃったんだ」



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