Side_Robin_2
無事に麦わらの船に帰ってくることができて、ロビンはまぎれもなくこの船のクルーであるのだと……ロビンは麦わらの船に存在することを許されていて、共に命を懸けて戦うことができるのだと、そう実感できて。
名実ともに、ロビンは麦わらの一味になれたのだけれど。
解決しなければならないことがまだひとつ、残っていた。
いや、『解決』という言葉は正確ではないのかもしれない。
ロビンがしなければならないことは求めること。
そして、求めていることを、きちんと言葉で伝えることだったから。
『……やっと、宿り木が見つかったのか?』
青キジの言葉を思い出す。
ルフィが目覚めて始まった、ウォーターセブンのすべての住人が集まったのではないかと思えるほどの大宴会の中、青キジが現れたときには心も体も硬直した。
今更、ロビンを捕らえに来たとは考えづらい。
エニエス・ロビーから引き返すときでも、ウォーターセブンに帰ってきてすぐでも……もっといえば、CP9に回りくどい方法をとらせずとも、デービーバッグファイトのあとに青キジに再会したときでも、アラバスタでバロックワークスの副社長として働いていたときでも、20年前のオハラでも、青キジはいつでもロビンを捕らえることができた。
だから、今になって青キジがロビンを連行しに来たとは思えなかったし、何より青キジからは戦意を感じ取れなかったけれど、それでも『もしも』に体が震えた。
『20年前オハラのために戦った巨人ハグワール・D・サウロとおれは……親友だった』
……もしかしたら、見守られていたのだろうか。
青キジの言葉と声が、そんな考えを呼び起こした。
ずっと、不思議だったのだ。
何故青キジがロビンを捕らえに来ないのか。
できるだけ目立たないように生きろと、20年前にロビンを逃がしたときに青キジは言った。
逃がされたときのロビンはただの子どもだったけれど、その後の20年の間にロビンは名実ともに犯罪者になっていたから、ポーネグリフを求めてはかりそめの仲間を失い続けたロビンを、いつ青キジが捕らえにくるのかと常におびえていた。
そのおそれは、ときにオハラのひとびとと同じように業火に包まれる自分の姿となり、時にサウロと同じように全身を凍らされた自分の姿となり夢にあらわれて、浅い眠りの中でロビンをおびやかした。
けれど。
『おれは今回……オハラのすべてに決着をつけるつもりでいたんだ』
そう言った青キジは、今まで待っていたのだと思った。
青キジはずっとロビンに問いかけていたのだろう。
おまえは何故そこに存在しているのか、と。
何故この世界はおまえを生かしているのか、と。
そうして、待っていたのだろう。
自分の掲げる正義に矛盾するとは知りながら、サウロの遺志が正しかったのだと……自分の親友の正義は間違いではなかったのだと、証明される日を待っていたのだろう。
青キジはロビンの人生を見届ける義務があると言ったけれど、その視線は青キジのものでもあり、サウロのものでもあるのだと思った。
ずっとずっと、生かされたことに絶望を感じていたロビンだったけれど。
生かされたこの命ひとつをもって、今は、自分を守ってくれた仲間に、自分を求めてくれたひとに、報いていきたいと思う。
存在することさえも許されないとされたこの命が、誰かを守り、誰かの気持ちに報いるものであるということを、証明していきたい。
生かされたことが正しかったのか、間違いだったのか。
『これからおまえは……その答えを証明してくれるのか?』
なんて傲慢な問。
存在自体は罪にならない。
その言葉を今のロビンは信じているから、生きていることが正しいのか間違いかなんて、他人が決められるものではないのだとは思う。
けれど、そう問いかけた青キジの声は、とても穏やかだったから。
幼い日から、ずっとずっと、見守られていたのだとロビンは思うことができた。
それならばロビンは、自分の正義を曲げてまで下した青キジの決断に、報いる必要があるだろう。
ロビンを逃がし、オハラの遺志をつなごうとしたサウロにもまた、報いる必要があるのだろう。
最期に生きる寄る辺となるぬくもりをくれた母にも、報いなければならない。
生かされたロビンが、今、笑顔でいること。
生かされたことを、幸福だったと思えること。
それが、ロビンを生かしたひとびとへの何よりの報いなのだと思った。
そして。
ロビンを守ろうとしてくれたクルーたちにも。
ロビンに想いを向けてくれた航海士にも。
報いていかなければならない。
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