Side_Robin_1



まだ、夢の中にいるみたい。

ウォーターセブンの宿舎で与えられた女部屋で、ロビンはひとり、コックの淹れてくれたコーヒーを口に運びながら思った。

窓から差し込む日の光は、夕方が近いことを教えてくれるあたたかな午後の日差し。

遠くからは、振り下ろされる槌の音が聞こえる。

それは、アクア・ラグナという大波にのまれてもなお、復興を目指して立ち上がろうとするこの街のひとびとの強さの音でもある。

こんなに穏やかな気持ちで、ぼんやりと暮れていく日を眺めるだけの時間が来るなんて、想像したこともなかった。

つい数日前のことなのに、記憶の中のエニエス・ロビーでの戦いは、すでに遠い過去のような気がする。

あるいは、あの壮絶な戦いこそが夢だったのではないかと、こんな平和な午後には思いさえした。

けれど、ロビンのために世界さえも敵に回して戦ってくれる仲間がいることは、夢などではない。

それは、ロビン自身の体に残る、未だ癒えないたくさんの傷痕が証明していた。

できるだけ痕が残らないようにするからな、と船医は言ってくれたけれど、別に残ったってかまわなかった。

今までの戦いで受けた傷は、すべてロビンが傷つけられただけの記憶を呼び起こすものだったけれど、今回の戦いで負った傷は、ロビンが守られてここにいることを証明するものだから。

でもそう言ったら、一生懸命治療をしてくれる船医の好意を無下にしてしまうような気がして、口にはださなかった。

今は、腕に巻かれた包帯でさえ、見ていればほほえんでしまう。

不意に外から笑い声が聞こえて、ロビンは立ち上がり窓の方へと足を進めた。

見下ろすと、宿舎の庭では船長と船医が笑いながら地面を転げ回っている。

何か、また新しい遊びでも思いついたのだろう。

この少年たちが、たったひとりの仲間を取り戻すために世界を敵に回して戦ったなんて、ウォーターセブンとエニエス・ロビーの関係者以外には誰も信じようとはしないだろう。

無垢で幼い笑顔の中にもゆずれない信念がある船長を信じれば、どこまでだってこの海を行ける気がしたし、ロビン自身、麦わらの船のクルーたちを守るためならどこまでも強くなれる気がした。

『この世に生まれてひとりぼっちなんてことは、絶対にないんだで!』

サウロの言葉は幼い頃には希望だったけれど、時が経つにつれて、きれいごととしか思えなくなっていた自分がいた。

世界からその存在を否定されたオハラのたったひとりの生き残りであるロビンに仲間など……ロビンと寄り添い歩くひとなど、この世にいるはずがないと思っていた。

けれど。

言葉にしなくても、ここには。

ただいるだけで、ここには。

ロビンをすくいあげてくれるひとたちがいた。

サウロの言葉は、幼いロビンの希望となるべく発された気休めの言葉ではなく、真実だったのだ。

ただ、その言葉が真実になるには、ひとつの条件が必要だっただけ。

それは、ロビン自身もまた、強く望むこと。

この世界で生きていくことを、強く望むこと。

そうして、ひととつながっていくことを、切に願うこと。

失ったり裏切られたりすることに耐えられないからすべてをあきらめて、手を伸ばす前から『ムリだ』と決めつけて逃げていたから、何もないからっぽの自分だったのだ。

その証拠に。

『生きたい』と、心の底から叫んだ今。

『私も一緒に海に連れてって』と、想いのたけを口にした今。

ロビンは再び、共に生きていく仲間のもとに帰ってくることができたのだ。

ロビンの胸には今、確かに、麦わらの一味の存在が……そして航海士の笑顔が、希望の光として灯されている。



[ 113/120 ]

[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -