Side_Nami_7



その足りない何かの正体がわからないことが、ナミがロビンに手を伸ばすことをためらわせる。

そして、ナミの心に根をはる8年前のかなしみの記憶が、ささやくのだ。

また同じことが繰り返されるぞ、と。

そうして、あの日の光景がフラッシュバックする。

『大好き』

母の言葉と同時に、響く銃声。

そのたびに思う。

ナミはこれ以上、ロビンを愛してはいけないのかもしれない。

ナミはこれ以上、ロビンに愛されるべきではないのかもしれない。

だってそんなかなしみ、もう二度と耐えられないから。

自分のために誰よりも大切なひとの命が散らされるのを目の前に見るなんて、人生で二度も乗り越えられるわけがないから。

この人生ではじめて出会えた、その存在なしでは息をすることさえ危うくなるほどに焦がれるひとを失うなんて、心が死ぬのと変わらない。

……自己犠牲が尊いことだなんて、今でも絶対に思わない。

ナミはもう、失うことが心に残す傷痕の大きさを知っている。

ただ、ロビンを失う恐怖に心がすくんではじめて、クルーたちが自分のせいで殺されてしまうよりなら、自分の命どころか世界さえも犠牲にすることをいとわなかったロビンの想いを理解できた気もした。

いつまでも続く喪失の痛みを抱えるよりなら死んだ方がましだと思った、ロビンのナミやクルーたちを想う心の果てのない深さも。

だからこそ、ロビンに足りない何か、それが埋まらない限り、ロビンはまた自分の命を代償に仲間を救おうとするかもしれないという不安が、どうしようもなくこの胸に渦巻いた。

ロビンを失ったら、今度こそ、ナミはもう立ち上がれないに違いない。

そうであるならば。

その声がこの耳に届くだけで。

その姿がこの目に映るだけで。

その香りが鼻をくすぐるだけで。

その肌とナミの肌がかするだけで。

そのひとが欲しくて欲しくてたまらなくて、でも叶えることはできなくて、人目もはばからずに大声をあげて泣きたくなるような、そんな苦しさを生むロビンへのこの想いは、捨てるしかない。

けれど、どうすれば捨てられるのかさえわからぬほどのこの恋だから。

互いにわきでるいとおしさを抱いたまま、いつかそのいとおしさも枯れ果てて、ゆっくりとこの想いが消えていくのを待つことしかナミにはできそうもない。

たとえ、どんなに時間がかかっても。

想いがとめどなくあふれだし続けるうちは、互いが欲しくてたまらなくて、どんなに心がひりついて、苦しくなっても。

ロビンの想いが見え隠れするたびに、ふたりの過去の何もかもを忘れて……このためらいさえも捨てて、その一時に心を充足させるためだけに、抱きすくめたくなる衝動をこらえきれなかったとしても。

ナミは、仲間という連帯を踏み越えるべきではないのかもしれない。

この想いを、かたちにすべきではないのかもしれない。

その迷いがナミの心を縛り、そうして今日もまた、ロビンの視線に気づかないふりをしてしまうのだった。



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