Side_Nami_6
ウォーターセブンに帰ってきてから、何か言いたげなロビンの視線や空気は感じていた。
その視線にも空気にも、ナミは気づかないふりをする。
たぶんロビンは謝ろうとしている。
勝手に政府にその身を差し出したことや、ナミたちに『助けて』と言えなかったこと。
麦わらの一味を信じきれなくて、『助けにきて欲しくなかった』と口にするどころか、『ここで死にたい』とまで言ったこと。
それから、ナミの想いを無視し続けたこと。
ナミの想いに応えようともしなかったこと。
いっぱいいっぱい謝って。
そのうえで、ナミだけへの『ありがとう』を言おうとしていたのだと思う。
そして、今までのふたりの関係を変えていくような、未来につながっていくような、何かしらの言葉を。
うぬぼれかもしれないけれど、ナミはそう確信していた。
ひとは急には変われないから、それでもまだ臆病なロビンは、結局自分からはナミへの想いを口にすることができず、もう一度ナミが『これからを一緒に歩いていきたい』と口にする時を待つだけかもしれないけれど。
それどころか、今までの『ごめんなさい』と謝らなければならないいっぱいのウソのせいで、今更自分の想いを口にすることは許されないと思っているかもしれないけれど。
それでも、ナミが望みさえすれば。
ロビンにはナミの気持ちに応える準備ができていて、それはナミがずっとずっと、ロビンへの想いを自覚してから願い続けてきたことだったのに。
痛くて、苦しくて、やりきれなくて、でも手放せなくて、ずっと抱えてきたものだったのに。
今のナミには、その一歩を踏み出すことがどうしてもできなかった。
だってロビンは、この船のためならまた、自分の身を差し出すことをためらわないかもしれないから。
『自分のためには生きられない、ロビンのその根本が変化していなかったとしたら?』と考えるだけで、動き出すことに抵抗するように胸が軋んで苦しくなった。
『また置いていかれたらどうする?』とナミの中の喪失の記憶がささやいて、身動きが取れなくなった。
ただ、それはロビンの中ではある意味自然な反応だということもわかっていた。
この世界で生きることを許されないと言われ続けたロビンが、やっと必要とされる場所を見つけたことで生まれた、反射だとさえ言えるのかもしれない。
それはもう、やむにやまれぬ衝動なのだ。
考えるよりも先に体が動いてしまう、そんな深くひとを求める気持ち。
だからといって。
ナミをかばって死ぬ間際に、『大好き』なんて言われたらたまらない。
そんなの、ナミの命をながらえさせただけで、ナミの心は一緒に死ぬのも同然だ。
けれど、自分自身のために生きられないロビンは、また自分の命を軽んじて、この船のためにどんな犠牲もいとわなくなるかもしれない。
そしてその想いが深くなれば深くなるほどに、そこにはほんの少しの迷いだってなくなるだろう。
むしろ、大切な誰かのために死ねることが、よろこびにさえなるかもしれない。
ロビンが再び自己犠牲という死に誘惑されたときに、今回のような出来事が繰り返されないとはいえない。
それがこわいのだ。
エニエス・ロビーでの戦いを越えて、ロビンがこの船のクルーたちを心から信頼してくれるようになったことは間違いないし、『私も一緒に海に連れてって』という望みを口にしたロビンは、あきらめと終わりの世界にいた、この世界に何も期待しないロビンではない。
けれど、何か足りない。
そんな気がするのだ。
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