Side_Robin_7
海列車は終着駅、エニエス・ロビーにたどりつく。
海列車から降りるように言われて踏み出した一歩は、ひどく重かった。
ウォーターセブンで麦わらの一味を裏切って、海列車に乗り込んだときの一歩でさえ、こんなにも重たいと……足を進めたくはないと、感じたりはしなかったのに。
存在することは罪にならない。
ロビンはCP9の後ろを歩きながら、フランキーの言葉を反芻する。
ほんとうに、そうなのだろうか。
たとえば麦わらの一味に助けを求めたとして。
ロビンを追いかけてくる闇は、世界政府が打ち倒されない限り、何度でも麦わらの一味もろともロビンを飲み込もうとするだろう。
ロビンは麦わらの船に乗ってから、何度も強い絆で結ばれたクルーたちの起こす奇跡を見てきたけれど、ロビンを追いかけてくる敵はあまりに強大すぎる。
船長でさえ、青キジにはまったく歯が立たなかったのだ。
そのうえ敵は青キジばかりではない。
どういう結果になるのかは、目に見えている。
たとえば航海士に、私と一緒に逃げてと言ったところで。
航海士から与えられるものを受け取るばかりで、自分からは何も与えようとしなかったロビンが、航海士との関係をうまく続けていけないことも目に見えている。
ロビンの『ほんとう』と向き合ったなら、深い想いを向けてくれた航海士であったとしても、ロビンを見限ることは間違いない。
なぜならロビンは与えるものなど何もない、からっぽの人間なのだから。
何より、ロビンと一緒にいて欲しいと願うことは、一緒に闇に飲み込まれて欲しいと願うことと同意だ。
ロビンは一緒にいるだけで、クルーたちを傷つける。
しかし少なくとも、フランキーは強く確信して『存在することは罪にならねぇ』と口にしたのだと、その真剣な表情からは伝わってきた。
もしも傷つけることが、罪ではないとしたら……?
ともに戦い、ともに傷を負うことが、傷つけることとは違うのだとしたら……?
ロビンは自らの迷いを振り切るように、巨大な正義の門を見上げ、世界政府の旗へと視線を移す。
それでも、ロビンの選択は正しかったのだ。
これで、よかったのだ。
海にそびえ立つ正義の門の大きさに、170ヵ国以上の国々が加盟する世界政府という組織の圧倒的な力に、そう確信した。
全世界を敵に回して、誰が無事でいられるというのだろう。
全世界を敵に回して、どうやって生きていけるというのだろう。
それでも後ろを振り返ってしまうのはなぜなのか。
クルーたちのやさしさをはねつけたのも、信じようとしなかったのも、ロビン自身なのに。
ロビンは覚悟を決めるために、もう一度正義の門を見上げた。
ごめんなさい、みんな。
ごめんなさい、ナミ。
こうすることでしか、あなたたちの未来を守れなかったの。
ロビンはそのまま、空を仰ぐ。
不夜島には夜がないから、星に語りかけることはできなくて。
だから代わりに、記憶の中の笑顔に語りかける。
……ねぇお母さん。
私はラフテルにはたどりつけなかったけれど、大事なひとたちを守れたわ。
だから、最期のときにはもう一度だけ、あのときみたいに誉めてくれるかしら。
がんばって生きたのね、ロビン、って。
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