Side_Robin_5
麦わらの一味に引き返してもらうためには、もう少し、いつわりを重ねなくてはならない。
ここまで追いかけてきてくれたのに罪悪感が生じないわけではなかったが、その手にすがるにはロビンの敵はあまりに強大すぎる。
エニエス・ロビーまでたどりついてしまえば、クルーたちが生き残れる確率はゼロだ。
それならばせめて、守らせて。
救いようのないほどのエゴとともに、そんな純粋な想いも確かにロビンの中にある。
それだけが、ロビンが自分に誇れる宝物。
ロビンひとりの犠牲で済むのならば、ほとんど犠牲はなかったも同じ。
だから長鼻の少年にも、コックにも、背中を向けたのに。
『……大丈夫だ……ロビンおまえ……大丈夫だぞ』
傷ついた体でしぼり出すように吐き出された長鼻の少年の声に、足を止めてしまった。
『おまえまだなんか隠してんな……』
そうして、振り向いてしまった。
長鼻の少年は言った。
海賊は、船長の許可なしに一味を抜けることはできないから。
『だからおまえ……ルフィを信じろ』
信じろ。
その言葉が、切実に……切実に、この胸に伝わってきて。
ロビンの心は、揺れてしまった。
何もわかっていなかったのは、ロビンの方ではないか。
麦わらの一味に入るということが何を意味するのか、ロビンは考えようともしなかったのではないか。
麦わらの船のクルーたちはいつも、よろこびもかなしみも痛みも、笑顔も泣き顔も、一緒に背負いながら歩いてきた。
だからロビンもクルーになった時点で、命を懸けてもらえていたのではないか。
ともに命を懸けて戦っていくことを、許されていたのではないか。
……守られる理由など、麦わらの船には必要ないのだ。
ロビンは麦わらの船のクルーになった。
ただそれだけでこの船は……このやさしくあたたかな船は、ロビンのために命を懸けてくれる。
ロビンもまた命を懸ければ、それだけでこの船はロビンの存在を許してくれる。
生きたいと望むことさえ許されなかった、ロビンの命、ひとつだけで……
『あたしは、たとえ死ぬことになったって、あんたと一緒にいたいって、そう思ってんのよ』
苦しそうに吐き出された、航海士の言葉がよみがえった。
あのときは、想いの強さを伝えるためのたとえのようなものとして受けとめたけれど。
『あたしはあんたと一緒に生きたいって、そう思ってんのに……』
あの、胸の奥から想いをしぼりだすように伝えられた言葉は、たとえでも誇張でもない、航海士の本心だったのだ。
航海士がロビンに向けてくれていた想いは、それほどまでに深かった。
ロビンは麦わらの船に存在することを許されていたのだ。
航海士の隣に寄り添い歩くことを、望まれていたのだ。
そしてその場所は、ロビンに与えられた希望の世界のすべてだったから、それはロビンがこの世界に存在することを許されていたに等しい。
そうやっと気づいて、来た道を引き返したくなったけれど。
もう一度クルーたちと旅をしたいと思ったけれど。
もう一度航海士と笑い合いたいと、もう一度航海士の体温を感じたいと、切に願ったけれど。
気づいたところでロビンを追ってくる敵の強大さは変わらなくて、やはりどういう選択をしていたとしても、結局ロビンが背負った運命は、ロビンが麦わらの一味と一緒にいることを許してくれないのだと気づかないわけにはいかなかった。
[ 103/120 ][*前] [次#]
[目次]