Side_Robin_4



あれだけクルーを大事にする船においては、裏切りという行為は決して忘れられることなく、クルーたちの記憶に刻みこまれるだろう。

そして航海士もまた、裏切ったロビンを決して忘れはしないだろう。

その愛情が深ければ深いほど、それがひるがえって憎悪になったとき、それはより強い感情となってその人間を支配するものだから。

ロビンを想ってくれた航海士の記憶ごと持っていけたらよかったなんて、ひどいきれいごと……

それなのにクルーたちは、ロビンを追いかけてきてしまった。

もしもアイスバーグが麦わらの一味に真実を伝える前に殺されていたら。

もしもアイスバーグにロビンの真意を話さなかったら。

麦わらの一味は助けに来たりなどせず、ロビンの願いは叶っていたのか……

考えても無駄なことばかり、頭に浮かぶ。

あの場でアイスバーグにロビンの真意を告げたのは、アイスバーグがあの場で死ぬ予定だったこともあるけれど、何よりロビンの中に、『この想いを誰かには知っていて欲しい』という気持ちがあったからなのだと、今は思う。

その想いがめぐりめぐって結局は麦わらの一味の知るところとなったのは、ロビンのそんな弱さのせいだ。

けれど何があろうとも、どんなにそのやさしい心根を傷つけようとも、麦わらの一味には引き返してもらわなければならなかったから。

長鼻の少年を傷つけ、コックにも訣別の言葉を向けて、彼らのやさしさをはねかえした。

ロビンはもう、気づいていたのだ。

『生きたい』と望んで生きるのではなく、母とオハラの遺志にすがって死んだように生きてきたこの20年。

存在を否定されてきたロビンにはじめてできた、ただロビンがそこにいるだけで笑いかけてくれる……ともにいることを許してくれる仲間たち。

そして。

何も持たなかったロビンのからっぽの心を、そのやさしくあたたかな想いでみたしてくれた航海士。

このひとたちを守って死ねるのならば、これ以上の死に場所はないのではないか。

誰にも必要とされず亡霊のように生きてきたロビンが、誰かを守って、誰かのために死ぬことができるなんて、この人生で最高の贈り物でさえあるのではないか。

そう、気づいていたのだ。

だから、助けてなんて欲しくない。

心からそう思ってしまった自分は、最後までひとりよがりなみにくさを捨てることができなかったということか。

この20年で他の何よりも大切に思えた存在を守るというロビンの思い描いた死は、これまでの自分の生きてきた道に十分に報いるものだと思ったのに、それを崩されたくはないと、そう思ったのだ。

クルーたちは、もうここまで来てしまったというのに。

でも、きっと彼らにはわからない。

誰にも必要とされることのなかった人間が……生きたいと望むことさえ許されなかった人間が、誰かのために死ぬことができるという歓びが、どれほどこの胸を震わせるのかということを。

その歓びは、クルーたちが助けに来てくれたという事実を、凌ぐほどだということを。



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