Side_Robin_2
『今おまえはここで死ぬべきだニコ・ロビン』
アイスバーグの言葉は、ふたつの意味で真実。
ひとつはアイスバーグの懸念を現実にしないため。
この世界が続いていくために、ロビンはあの場で死んだ方がよかった。
もうひとつは、ロビン自身のため。
頭の中に刻み込んできたポーネグリフに記された古代兵器のありかは、白日のもとにさらすべきではないことぐらい、アイスバーグに言われずともわかっている。
人間は盲信する正義の名のもとに、どんな犠牲をはらうこともためらわない。
ロビンはそれをオハラで思い知らされた。
ロビン自身、古代兵器のありかを政府に教えるつもりは毛頭ない。
だが、政府はどんな手を使っても、ロビンの知識を手にしようとするだろう。
それは、海軍ではなくCP9という政府の諜報機関が、アイスバーグに受け継がれた古代兵器の設計図とロビンの身柄を確保しにきた事実が証明している。
何年にもわたる潜伏調査を行い、バスターコールを使用する権利までを手にし、海賊に濡れ衣をきせた市長暗殺というまわりくどいやり方をしたところからも、世界政府が本気で古代兵器の確保に身を乗り出したことは明らかだ。
世界政府がどんな手でロビンから情報を引き出そうとするかはわからないが、その苦しみにロビンがどれほど耐えられるかはわからない。
だからロビン自身のためにも、あの場でアイスバーグに撃たれでもした方が、ずっと楽に死ねたのだ。
けれど。
『私には行く場所も帰るあてもないの。だからこの船において』
敵だったロビンにそう言われて。
『何だ、そうか。そらしょうがねぇな。いいぞ』
そう簡単に承諾してしまった船長が率いる船は……
『あんたは、あんたのさみしさが誰かに届いてすくいあげてくれるのを、待ってればいいのよ』
そう言ってくれた航海士が導く船は……
絶対に、失いたくなくて。
一度捨てた命も、失った心も、途絶えた夢も、みんな拾いあげてくれたうえに、ロビンを信じてくれたこの船に。
誰かを想う痛いぐらいに切ない熱情を、誰かに想われることの泣きたくなるほどの幸福を、教えてくれた航海士に。
いつまでも笑顔で、この海を旅して欲しくて。
そのためならばロビンは、この身どころか、この世界を犠牲にしたってかまわないと思った。
海列車は急速にその速度をあげていく。
ロビン、と、今はもう懐かしい、いとしいひとの声でこの名を呼ばれた気がしたけれど。
そんなものは、あまやかな思い出にひたるロビンの願望が聞かせた幻。
もう、あのにぎやかでやさしい場所に戻ることは、二度とないのだから……
ロビンは麦わらの一味から遠ざかっていく。
思い浮かぶのは、クルーたちの笑顔。
思い浮かぶのは、航海士と過ごした時間。
その記憶を反芻し続けて、その笑顔に古代兵器の力が向けられるかもしれないと思えば。
これからロビンの身に降りかかるであろう苦しみをさえ、この命が尽きるまで、耐えられるかもしれないと思う。
そんなやさしくあまやかな思い出たちを抱きしめて。
ただ、祈り続けよう。
どうか。
どうか、いつまでも。
私の心をすくいあげてくれたあの船が。
あのひとが。
笑顔でこの海をわたっていけますように。
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