Side_Robin_1



思い浮かぶのは、やさしくあたたかな思い出ばかり。

そう言ったら航海士さん、あなたはまた怒るかしら。

過去ばかり見て未来を見ようとしない私を、いつもしかってくれたように。

出発の汽笛はこの海列車から鳴り響いているはずなのに、どこか遠くから聞こえているように感じた。

まるで現実感がない。

いつか、この船を下りることになるのはわかっていた。

それが、そんなに遠い未来ではないことも、わかっていた。

だからといって、こんなにも早く麦わらの船との別れが来るとも思っていなかったのは、結局最後まで、もう少しだけ、もう少しだけと、あたたかな時間が続いていくことを望む、このわがままな心を捨てきれなかったからなのだろう。

でも、もう、それもいいのだ。

「本日最終便『海列車』――ウォーターセブン発エニエスロビー行き」

車内アナウンスが、またたく間に終わってしまった夢の幕を下ろす。

やさしくあたたかな夢の、終わりのとき。

「出航至します」

蒸気機関が音を立てて動き、海列車は進み始める。

『死を望む私をあなたは生かした……それがあなたの罪』

不意に、麦わらの船に乗り込んだときの記憶が、あざやかに脳裏によみがえった。

海列車の窓枠に頬杖をついて頭を支えていたロビンは、その手のひらでまぶたを覆って目を閉じる。

そうすれば、海列車の中という現実を離れて、より深く思い出にひたることができるような気がして。

もはや、思い出にすがることだけがロビンの寄る辺。

そんな自分にひとり、自嘲した。

頭の中によみがえる思い出は、まるで走馬灯のよう。

そう考えて、それもあながち間違いではないのかもしれない、と思った。

ロビンはこれから、死にに行くのだから。

そこは、麦わらの船に乗る前の『生きても死んでもいない世界』と同じではない。

麦わらの船に乗る前も、まるでオハラの亡霊のようにポーネグリフを追い続けたロビンだけれど、少なくともこの世界にしがみつく目的はあった。

母とオハラの遺志を継ぐという目的があった。

でも、これからは違う。

おそらく、ロビンを待つのは苦痛だけの未来。



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