side_Robin_2



航海士は海を見つめている。

その横顔に、魅入られる。

それなのに航海士の瞳は、ロビンを見ずに今度は夜空へ向けられる。

なんだか、不公平な気がした。とても、不公平。

「星、好きなの?」

だからロビンは、本を閉じて航海士に尋ねた。

星がきれいにまたたく夜だったからそう尋ねてみたけれど、答えはどっちだってよかった。

ただその意志的な瞳がこちらを向いていないのが、なんだかとても不当な気がしたのだ。

「別に、好きでも嫌いでもないわ」

けれど航海士はロビンの方は見ずに、あっさりと答える。

「きれいだな、と思うことはあるけど、それだけ」

航海士はそう言って、「ロビンは?」と付け足した。

「私も、好きか嫌いかなんて、考えたことがないわね」

「何それ? 先に質問したの、あんたでしょうが」

航海士はやっとこちらを振り向いて、苦笑して言った。

「なんとなく、訊いてみたくなったの」
「そ」

航海士は短く答えると、デッキチェアのすぐそばの砂の上に、膝を抱えて座る。

デッキチェアを譲ろうかと提案したけれど、断られた。

「あたしの好きなものは、お金とみかん。言わなかったっけ?」
「聞いたわ」

手のひらで砂をすくいながら言った航海士に、ロビンはうなずいて見せる。

「あんたの好きなものは?」
「え?」

問い返されるとは思っていなくて、答えを用意していなかった。

けれど考える間をほとんど与えず、航海士は続けた。

「まあ、本とコーヒーよね、見るからに」

そう言って、航海士はけらけらと笑った。

「そう、ね」

間違いではない。

本とコーヒー。

これがあれば他に何もいらないとはいえないけれど、ひとまず、本とコーヒーがあれば過ぎていく時間の遅さにうんざりすることはない。

「あと、この船、とか」
「……」

挑戦的な瞳に覗き込まれて、言葉に詰まってしまった。

うなずいてしまえば、簡単なのに。

それは様々な組織に取り入るために簡単に口にしてきた薄っぺらいウソと、何ら変わらないはずなのに。

この船を居心地がいいと感じている自分だって、確かにいるのに。

どうしてか自分は、航海士の言葉を肯定することができなかった。

「ふふ……いい傾向ね」

じゃあ何でこの船に乗ったのよ、とか、ウソでもいいから肯定しときなさいよ、とか、とにかく怒られるのは確かだろうな、と思っていたのに、航海士は穏やかに笑っていた。

そんな顔で、笑わないで。

泣きたくなってしまうから。

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