Side_Nami_3
それは、あの瞬間に胸を支配した絶望的なまでの無力感が証明している。
『誰かが私を抱こうとして、私がそれを拒絶しないのは、特別なことではないわ』
そう言われたときとは比較にならないほどの。
もうこの場で動けなくなって殺されてしまってもかまわないと、そう思うぐらいの。
すべてが徒労に過ぎなかったことを思い知らされた無力感。
自分のことをからっぽだと言ったロビンには、この船以外に心に大事に抱いているものがあった。
何も欲しがらないロビンには、この船で生きていくこと以外に願っていることがあった。
何も世界に期待していないと言ったロビンは、本当はこの船とナミに期待していなかっただけで、この船を犠牲にしてでも叶えたい願いがちゃんとあって、それはナミたちに教える義理さえないと思っているのだと、そう思ってしまった。
そんなはずがないと即座にその考えを振り払いながらも、そんな疑念が一瞬でも頭を支配したのは事実だ。
だからこそ、あれほどの絶望を抱いたのだろう。
まさか、と思う心と、やっぱり、と思う心。
その揺れる心の狭間にナミは立ち尽くしてしまった。
疑ってしまった。
あれだけロビンが好きだと言って、ロビンも自分のことを好きだと確信していると大口をたたいたくせに、ナミはロビンのことを何もわかってはいなかったのだ。
それを思い知らされるのは、アイスバーグの口から真相を聞いてから。
アイスバーグは言った。
『事もあろうに、全世界に生きるすべての人間の命より、あの女はおまえたち6人の命を選んだ』
その言葉を聞いて、ロビンはナミたちのためにその身を捧げたのであって、裏切ったわけではないのだとほっとしたのはほんの一瞬。
動き出さなければ、という強い衝動に、この身が震えた。
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