Side_Nami_1



ロビンと出会ってからのどの時点まで時間を巻き戻したならば、このあやまちはなかったことにできるのだろう。

パドルが海面に浮かぶ線路をつかんで加速し、ロビンのもとへ向かって大波さえも越え、海上を猛スピードで駆け抜けるロケットマンの中。

アイスバーグにロビンの真意を聞いてから、何度も浮かんでは振り払ったその問いが、再びナミの頭の中を支配する。

あやまち、という言葉は、おそらくロビンにとっては不本意な言葉に違いない。

それでも、ナミにとって……いや、ナミだけではない。

この船のクルーたちの誰もが、ロビンの行動をあやまちだとみなすだろう。

この船を守るために、自らの身を差し出したロビン。

20年間、どんなに苦しくても、どんなに傷ついても、生きることをあきらめなかったはずなのに、今回はあっさりと世界政府に身をゆだねたロビン。

突然船に乗ることになったロビンが、突然船を降りるという事態は、想像しなかったわけじゃない。

そもそも敵だったロビンが、この船を裏切ることだってありえないことではないと、ロビンがこの船に乗り込んでしばらくは考えもした。

それでも。

その身を犠牲にしてまで、この船を……ナミたち6人を守ろうとするなんて考えてもみなかった自分は、いったいロビンの何を理解していたのだろうか。

どこまで過去に戻ってやり直せば、ロビンに身を捧げさせてしまったこの船の、ナミのあやまちをなかったことにできるのだろう。

誰よりもロビンを理解しているつもりになっていたのは、うぬぼれにすぎなかったのだと思い知らされた。

ナミの力は男性クルーたちには劣るけれど、この手でロビンを守れる気になっていた。

この手で、ロビンの心をすくいあげられる気になっていた。

でもそれは、子どもじみた傲慢な思い上がりに過ぎなかったのだ。

ウォーターセブンに着いて、チョッパーと共に街に出たロビンが姿を消した夜だって、不安は絶え間なくこの胸に押し寄せたけれど、それはあくまでロビンがこのまま帰ってこなかったらどうしようという、そんな自分本意な不安にすぎなかった。

ロビンがこの船のために自分の身を捧げる決断をしていたなど、想像もしていなかった。

前の日の夜、『何も望んではいない』というロビンの言葉を聞いて、どうしようもなくやりきれなくなってしまって。

『バカ!』とロビンに怒りをぶつけて、そんな気持ちのままふたりきりの空間に身を置くのは耐えがたくて、ナミは船番を交換してもらっていたから、あの日の夜の様子はわからない。

それでも朝も、シフトステーションに立ち寄ったときも、ウォーターセブンについたときも、いやになるぐらいにいつも通りだったから、また最初に立ち戻っただけなのだと思った。

ロビンが感情を隠そうとすると、ナミにもまったく読み取れないのだと改めて気づいた。

これまでは、ナミに読ませるために、敢えて隠していなかっただけ。

そのポーカーフェイスぶりは呆れるぐらいに徹底していて、明るく振る舞おうとする自分の方が何もかもを見透かされているのではないかと、かえって落ち着かなくなるぐらいだった。

でも、そうしてナミが近づくことを怖れてあきらめたい気持ちになって、少し目を離した隙に、ロビンは自分の身を捧げるという決断をしていたのだ。

もしも政府の人間がロビンに接触したときに、ナミがついていたら……

結果は変わっていただろうか。

不安定なロビンを更に追い詰めたくせに、あきらめに身をまかせそうになって、結果として手を離してしまった自分を何度なじっても、時間は戻らない。



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