Side_Robin_7



「知ってる? メリーくらいの船になっちゃうとそうでもないんだけどさ。ひとり乗りの……ボートぐらいにちっちゃい船に仰向けに寝て、空を見るとね。ひとりぼっちの海の上には、自分の船以外には何もないから、視界が空だけになるの」

航海士の言葉が、20年前のあの日の光景を呼び起こす。

青キジが用意した小舟に乗って、泣きながら氷が導く航路をたどったあの日。

夜、泣いて泣いて泣き疲れて、それでもまだにじむ涙のせいで、目の周りがひりひりと痛むのを感じながら、小舟に寝転がり、空を仰いだ。

「そうね……視界が空だけで埋め尽くされる」

視界いっぱいの、満点の星。

きらきらとにじみながらまたたく星の下、ロビンはこの世にひとりきりの孤独をはじめて味わった。

ロビンに笑いかけてくれたすべてのひとが、死んでしまった。

ロビンに声をかけてくれたすべてのひとが、いなくなってしまった。

母と手をつなぐという夢が叶ったと同時に、大切なもののすべてを失った。

これからどうしていけばいいのか、皆目見当がつかない。

『デレシ、デレシ、デレシシシ……』

夜空を見ながら、もう一回笑ってみた。

でも、声は夜空に吸い込まれていくだけで、何の反応も返らない。

誰の声も聞こえない。

誰の気配も感じない。

ああ。

自分はほんとうにもう、この世にひとりきりなんだ。

そう実感して、また目じりから涙がこぼれた。

視界に映る星たちが、そのまま降ってくるように感じた。

空がすごく近くに感じられて、このまま目を閉じれば、何もかもが元通りになるのではとさえ思ったけれど、そんな夢のような奇跡は起こりえないのだと同時にわかっていた。

航海士の過去について、尋ねたことはない。

だが、そんな途方もない孤独を、航海士もまた味わっていたのだとしたら……?

そんな途方もない孤独の果てに、ロビンを見つけてくれたのだとしたら……?

「ああいうときって、ほんとうにひとって、どうしようもなくひとりきりだなあって思うのよねぇ」

その言葉を聞いて、ロビンは急に足から力が抜けたように、立っていることもままならなくなり、航海士の隣に座り込んでしまった。

どんなに謝っても謝りつくせない。

こんなにもおろかな自分に想いを向けてくれたのに、ロビンがそれを受け止めようとさえしなかったことも、そのくせに自分の想いだけは伝えようとしたことも……

いや、それだけでは足りない。

この船に乗ったことも、出会ってしまったことも、好きになってしまったことも、好きにならせてしまったことも、航海士への想いを捨てられないことも、何もかもを謝って、ありったけの想いをこの腕にこめて、ただ抱きしめたかった。

でも、もうそれはできないのだ。

ロビンがこの船にとどまり続けることは、きっとないから。

誰も大切にできないロビンが、航海士を笑顔にすることなんて、できないから。

そうであれば、ロビンにできる唯一のことは、ふたりの関係を断ち切ることだけ。

それが唯一の、罪滅ぼし。



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