Side_Robin_6
「星、見てるとさ。数えたくならない?」
まさに自分が先ほどまでしていた行為と同じことを航海士もしているのだとわかって、どうしようもなく、よろこびに震える胸。
もしも青キジがこの船に舞い戻ってくることがなくて、ロビンが航海士への想いを完全に隠し通すことができるようになれば、この船に居続けることができるのではないか。
そう考えて、『バカなことを』と自嘲した。
「ちゃんと全部数えるのは絶対無理だし、数えてるうちに別なことを考えちゃって、どこまで数えたかもわからなくなっちゃうんだけどさ」
そんなロビンの心の動きに、気づいているのか気づいていないのかはわからない。
航海士は静かに言葉を紡いでいく。
「不毛だってわかってても、してみたくなる。また数え直すの」
「ええ」
ロビンが短く相槌を打つと、航海士は数歩前に出てロビンの方へ向き直り、そのまま船縁にもたれて膝を抱えて座り込んで、空を仰いだ。
その間、航海士はロビンの方へ視線を向けなかった。
ロビンが航海士の視界に入っていながらも、航海士のまなざしがロビンをとらえない。
そのことに、きり、と痛んだ胸。
どこまでもおろかなこの恋心を、隠しきれるわけなどないのに。
航海士の希望は拒絶するくせに、自分の想いは知っていて欲しいと願う、子どもじみたわがままのかたまりのようなこの心を、今までだってずっと持て余してきたのだ。
それでも、この恋を捨てようなんて露ほども思わない自分は、ほんとうにすくいようがない。
語られぬ歴史を紐解くことが、オハラに生まれたロビンの宿命なのだとすれば、航海士への慕情を抱き続けることは、今を生きるロビンの存在の証なのだ。
「どうしてひとは、不毛なことばかりしたがるのかな。意味のないことばっかり、無駄なことばっかり、とらわれてるって思わない?」
「意味を問うことさえ、無意味なのかもしれないわ。いつかあなたが言ったように、理由もなく、そうしてしまうことのすべてが愛情ならば、私たちと不毛なことの間を埋めるのもまた、愛情ね」
「……ロビンがそんなふうに言うときがくるなんて、あんときは想像もしなかったわ」
相変わらず航海士はロビンの方を見ないまま、疲れたように笑った。
そのまま航海士は抱えていた膝を伸ばすと、ずるずると船縁に預けた背中を滑らせ、甲板に横たわる。
見下ろすロビンの方を、航海士はまだ見ようとはしなかったけれど、夜空をまっすぐに見上げる瞳は月明かりを吸い込んでキラキラしていた。
[ 89/120 ][*前] [次#]
[目次]