時期はゼロ戦後〜ドラマCDぐらいです
雷門との試合後、シュウと白竜は雷門の選手たちをゴッドエデンの温泉に招待しないかと話し合っていた。
しかし話し合いの最中も先ほどの熾烈を極めた戦いの熱は冷めないようで、特に白竜は己がライバルと認めた剣城と戦えて、剣城もまた白竜とやれてよかったと言ったものだから喜びを越えて感慨無量だったと言う方が正しいだろう。いつにも増して饒舌に語り始める白竜に、シュウは少し呆れた様子で溜め息をついた。
「本当に君は剣城しか頭にないんだね。僕らは雷門と戦ったんだよ?」
「そんなことわかっている。雷門の他の選手もいい選手ばかりだった。だが、その中でも俺の剣城が一番究極に近かったと言っているんだ」
「そう。まぁよかったね、白竜は剣城のこと大好きだものね」
「ああ!」
迷いなく嬉しそうに首を大きく縦に振った白竜に、シュウはこれ以上話しても無駄だということを悟った。
そして、それならばと閃いた。
「これから皆で温泉に入るけど、剣城だけ別の場所に連れていったら?」
「なぜだ?」
「そりゃあ…積もる話もあるだろうし、二人きりならしやすいんじゃないかと思ってさ」
「何をするというんだ」
「もう、告白に決まってるじゃない。暫くはたぶん会えないんだし、早いとこ剣城に伝えた方がいいと思ったんだけど?」
「…告白?」
いまいち白竜はその言葉にピンと来ないようで、シュウを不思議そうに見ながらどういうことだ、と聞いてきた。
びっくりしたのはシュウだ。
「え…白竜は剣城が好きなんだろ?」
「ああ、もちろんだとも」
「じゃあ普通するもんじゃないの、愛の告白」
「だからそれがよくわから……」
イラついた様子で聞き返そうとした白竜はピタリとその場に縫い付けられたように動きを止めた。そして次第に顔色を悪くしていく。
「……………愛?愛だと言ったか?」
「うん」
「どうしてそんな言葉が出てくる」
「え?だって白竜、好きなんでしょ剣城のこと」
「ああ。しかしそれ以上のことがあるのか?」
「…つまり、好きは好きだけど恋愛感情は持っていないと」
「恋愛!?剣城と恋愛だなんて、そんな馬鹿なことはない!」
焦って否定する白竜は嘘をついて強がっているようには見えなくて、シュウは唸って考え込んだ。てっきり白竜はそういう意味でも剣城のことを好きなのだと思っていたからだ。
しかし、少し引っ掛かりがあることに気づく。
「なんで恋愛に発展するのが馬鹿なことなの?」
「…剣城は俺のライバルであり俺が唯一尊敬した男でもある」
「つまり?」
「つまり…その、なんだ」
「なに?」
「…ぅ、お、お前には関係のないことだ…」
いつになく歯切れが悪い白竜が僅かに赤面したのを見て、思い違いではないと安心する。しかし赤面がひどく可笑しくてクスクス笑うと、赤面したまま膨れっ面になったものだから更に面白い顔になった。
ひとしきり笑った後、シュウは新たな考えを思いついた。
「白竜、君は天馬たちを先に温泉へ招待してあげてよ」
「は…?なぜだ。お前は松風天馬が気に入っているんじゃなかったのか」
「もちろんそうだけど、ちょっと剣城に用事が出来たんだ。会いに行ってくるよ」
「何っ!?剣城だと!!?なぜお前が剣城と会わねばならない!」
「すぐ戻るから」
「あ、待て、シュウ!!」
風のように走り去ったシュウを白竜は引き留めることはできなかった。勝敗が目に見えている追いかけっこなどやるだけ無駄だ。
シュウが剣城と会って何をするか白竜にはわからなかったが、シュウと剣城が二人きりになるという状況を考えるとどうにも胸のあたりがモヤモヤした。
(剣城がゴッドエデンを出たと知った後も暫くこんな感じだった…)
剣城はライバルで唯一尊敬した人物。それに対するのは好意であっても愛情ではないと思っていた。
しかし胸焼けや吐き気とはまた違う、苦しいくせに苦しいだけではない中途半端な鼓動が止まらない。
その鼓動を打ち付ける心臓が焼けるように熱く、服の上から手を宛ててみてもその体温を感じ取れるわけではなかったが、それでも白竜は胸の奥からじわりと染み入るような痛みを掴もうと手のひらを結んだ。
「…オレに話?」
「うん、ちょっとね。すぐ終わるよ」
なぜシュウが一対一での話をしたがるのか理解できなかったのか、剣城は怪訝な顔でシュウを迎えたが、案外すんなりと了承してくれた。
なぜかと聞けば天馬に特訓中の話を聞いたらしい。天馬はお前のこと信用しているようだったから大丈夫だと思ったとのことだ。白竜が以前話してくれた剣城とはおおよそ違って、最初ほだされただの棘を抜いた薔薇だの言っていたのがとんだ勘違いだと分かる。
「それで、オレに話ってなんだ」
「白竜のことを君はどう思ってる?」
「白竜…?なんであいつが出てくるんだ」
「いいからいいから。それで、どうなのさ」
まさか森の奥にわざわざ呼び出されたのが白竜の話をするためだとは思ってもみなかったらしく、剣城はキョト、と不思議そうな顔をする。そのままシュウに促され言葉を選ぶようにポツポツと話し始めた。
「白竜は…あいつのことはシード時代からそこまで気にしていなかった。そのときオレは他人と張り合うという考えを持ち合わせてなかったから」
「うん。白竜も言ってたよね、鋭い刃のようだったーって」
「それはあいつが勝手に言ってただけだ。…白竜は確かにオレと同等の力量を持っていたがなにしろあいつは…煩い」
「はは、否定できないね」
「何かにつけて一緒に究極になろうだのお前とだったら手を組んでいいだの、付きまとわれて鬱陶しかったのが一番だな」
話すうちに昔の記憶が蘇ってきたのか、遠くを見つめる剣城にシュウは微笑み続きを促す。
「剣城は白竜が嫌いだったの?」
「鬱陶しかっただけだ。あいつの実力は認めてた」
「じゃあ、好きだった?」
「………わからない」
「そっか」
一瞬の躊躇いの後呟かれた言葉は大方シュウが予想していた通りで、後は白竜次第かな、と一人ごちた。
「このあと君たちを温泉に招待しようと思ってたんだ。そのときまた白竜は君に突っかかると思うけど、なるべく付き合ってあげてね。彼、寂しがりやなんだ」
「それは…知ってる」
剣城は心当たりが十二分にあったのか頭を押さえる。
「ふふ、なら大丈夫だね。貴重な時間をありがとう。天馬たちは今ごろ白竜に案内されて温泉に向かってると思うから、僕らも行こうか」
「ああ」
迷うから僕についてきて、と言ったシュウにつき、後ろを歩いていた剣城が思い付いたように呟く。
「お前…白竜のことよく知ってんだな」
「まぁね。白竜がゴッドエデンに来たときからずっと一緒だったから」
「そうか…」
「なに、気になるの剣城?」
「は…!?べ、別に、ちょっと聞いてみたい気分になっただけだ…」
「そう?」
急に慌てる彼を少し可愛いと思ってしまったが、そんなことを言ったら白竜にようやく剣城の良さがわかったかとまた終わりの見えない剣城語りのきっかけを与えてしまう。それはいささか面倒だ。
二人とも自覚がない時点でめんどくさいことに変わりはないのだが、我ながらよくやるとシュウは苦笑を浮かべた。
「恋路を取り持つのも楽じゃないね」
「何?」
「なんでもないよ。それより剣城、ちょっと耳貸して」
立ち止まって耳を傾ける剣城に顔を近づけ、邪魔になる特徴的なもみ上げを避けるとぴくりと反応する。
「早く気づいてあげて」
「…え」
「僕もこのままじゃ安心していけないから」
「、」
ぱ、と離れたときには剣城はぽかりとシュウを見つめて、僅かに頬を染めた。
それを横目で確認する。
「行こうか」
「ああ…」
今白竜はシュウと剣城が二人きりで何か話していることを不安に思い落ち着かない気持ちでいるだろう。その嫉妬の勢いで行けることが出来ればいいのだが。
「後はがんばってね、白竜」
二人で帰った時の焦った間抜けな白竜の顔を想像してほくそ笑んだ。
【PUSH!PUSH!】
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お察しの通り幸月は白京も好物なのでノリノリで書かせていただきました。
シュウが出張ってますがシュウは別にどちらのことも特別な意味で好きなわけではなく成仏する前にやることやっとこうみたいな感じで考えてます。
白竜は剣城大好きなイメージが強くて無自覚な白竜が想像できませんでした…のでこのような結果に((д))
リク頂いたひつじ様のみお持ち帰り&書き直しおkです!!お粗末でしたー!!
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