中学の頃、フィフスセクターが解散した後も剣城はサッカー部員以外には取っつきにくい雰囲気があったのだが、高校生になってから剣城は変わった。いや、自分で変える努力をした。
制服は規定のものを少し着くずす程度、自分からクラスメイトに話しかけることも多くなった。剣城は元々頭もいいし、他人に優しい上に気配りもできる。更に一昨年、昨年のホーリーロードでは見事得点王に輝き、中学サッカー界で剣城の名を知らないものはいなかったほどだ。当然名だたる有名サッカー校は彼を取り合ったが、剣城はそれら全てのオファーを蹴りそのまま雷門の高校に進学した。剣城によれば選ぶのがめんどくさいとの言い分もあったとはいえ、高校でそれが噂にならないはずがない。近寄りがたい雰囲気が払拭されちょっとした有名人で尚且つ剣城の目立つ容姿も合間って、人気がでない要素はどこにもなかった。



「天馬くんは不安じゃないの?」

「何が?」


弁当のタコウインナーをフォークで刺し、狩屋はただの興味本意だけどという前置きの元そう言った。
惚けてみたものの狩屋が話したい話のタネにはすごく心当たりがある。しかしわざわざ話し出したい話題ではなかったので、黙っていた。


「あれだよ、剣城くんが…告白されたってやつ」

案の定、朝から聞こえてきた耳障りでありがちな噂だ。途中から小声になった狩屋にあっさりとした口調を出す。

「あのお金持ちのお嬢様でしょ」

「剣城くんから聞いてたの?」

「ううん、朝から皆話してたからそれ聞いただけ」

「じゃあ、余計面白くないんじゃない?天馬くんからしたら…」

「別に〜?剣城が告白されたことなんて今回が始めてじゃないだろ」

「そりゃそうだけど…君たちの仲もさ、わかってるけど。でも今回は学年1の美少女だぜ?」

「うん、知ってる」

「それにしてはやけに落ち着いてるね」

「そりゃそうだよ」

「どういうこと?」

怪訝な顔で狩屋が少し身を乗り出した。
剣城はまだ返事をしていないらしいが、それは返答に迷っているのではない。天馬にはわかる。気になるのか急かすように狩屋が天馬の名前を呼んだ。


「その子が、おれたちの中に入ってこれるとでも思ってるの?」

表面は元気で天真爛漫な笑顔を張り付けたまま、次の瞬間開いた眼光は射るように狩屋に刺さった。
びくりと体を震わせた狩屋に、ウインナー食べないの、とフォークを指さした天馬はいつも通りの天馬だった。驚いた様子の狩屋を尻目にさて、とひとつ息をつくと、急に席を立ち出す。

「ちょっと剣城のとこ行ってくるよ。後頼んだよ狩屋」

「え?頼んだってどういうことだよ!?ちょ、天馬くんっ」

わけがわからないと狩屋もイスを揺らすが、その前に天馬は教室から出ていってしまった。


「…なんだよ、結局心配なんじゃん」

残された狩屋はふて腐れたように頬杖をつき、ウインナーを口に運んだ。












剣城がモテるのはわかる。しかもすごくよくわかるから、剣城に恋した人たちを責めるとか、恨むとか、できるはずがないのだ。
それだけ剣城は魅力的なんだと嬉しいのだって半分は感じている。
しかしだ、それが何回も続いてしかも皆が皆かわいい女の子だったりして、少しぐらい妬んでしまうのは仕方がないことだと許してほしい。高校生になって徐々に強く感じるようになっていった男女の違いを、ここで遺憾なく発揮されてしまっていることも妬みの原因だが、それこそ妬んでも意味のないことだ。
だからそれ以上そのことを考えなくても良いように、剣城の顔が見たくなった。

中学のときより更に背が伸びて結局届かなかったそびえる剣城の頭を、屈んでもらって撫でることができるのは自分だけ。そうだと確信できる確証が欲しかった。

「今からお前のクラスへ行こうと思っていたんだ」

クラスを訪ねたとき剣城はちょうど席を立ち上がったところで、信助と輝が微妙な表情で見送ってくれた。
そこまで気にすることはないと思うが、心配してくれる皆に心の中で感謝する。

「校舎裏まで行くか?」

「部室の方がよくない?誰かいても事情を察してくれそう」

「お前な…」

「なんとかなるって!ほら、行こう剣城!」

勢いで繋ぎそうになった手の軌道を変え腕を引っ張るのに止めておき、剣城を連れて走る。剣城は優等生みたいに廊下は走るなと小声で怒鳴った。


部室についたときには少し息が弾んでいて、扉を開け中にいた倉間と速水、浜野の三人に騒がしいと言われてしまった。

「なんだよ、そんな急いで部室来て」

「剣城くんと一緒ですか?」

「ちゅーか何?昼終わりに二人だけで来たってことは…つまりはそういうこと?」

浜野が楽しそうに悟った事を、倉間も気がついたようで舌打ちして眉間に皺を寄せる。速水が眉を下げ困ったように笑いながら言った。

「つまり二人が部室を使いたいから僕らはいない方がいいってことですね」

「まぁ、要約すればそうです」

「チッ…先輩をなんだと思ってんだよ」

「ま、いいんじゃない?そろそろ行こうって話してたところだったじゃん」

「そうですね」

「天馬と剣城、後で俺らにアイス一本ずつ奢りな。その代わりある程度人払いしといてやるよしょーがねーから」

「ありがとうございます先輩!!」



三人を見送り剣城と改めて向き合う。今日も、剣城はかっこいい。

「剣城、ここ座って」

指差されたイスの一つにちょこんと腰掛け、これで天馬が抱きつくとちょうどいい具合に顎が頭に乗せられる。天馬も成長したのに同じ分だけ剣城も大きくなってしまい、結局中学のときと身長差はそれほど変わらない。それを嘆くわけじゃなくて変わらない距離はむしろ落ち着き、ツンツンしている剣城の頭はくすぐったくて、気持ちがよかった。


「俺は天馬が好きだ」


髪に埋めた顔がぴく、と動いた。剣城の表情は天馬の位置から見えなかったが、きっと顔だけはなんでもないように見せているんだろう。
剣城はもう一度、自分にも確認させているように言った。


「俺は、天馬が好きだ」

「うん」

「どれほど顔が良くて、どれだけ頭が良くて、どんなに金持ちで地位も名誉もあって輝かしい将来があったとしても、それになびくわけない」

「うん」

「他のやつには興味がないんだ。天馬もそうか?」

「うん、もちろん」

「天馬」

「俺も京介以外に考えられない」

「天馬」

京介は泣くわけでも笑うわけでもない。ただ天馬がそこにいることに満足しているようだった。

「…愛してる」



不安と愛しさで押し潰されそうになりながらせり上がる充足は天馬と京介が望んでいたそれで、一時の幸福感に打ち震わせる心は中学の時、何も知らない子どもだった頃と何も変わらない。


この不安に勝つことはないだろう。しかしもう一つの愛しさだけは、確かめ合うだけの愛を、求め続けることに何の不安も抱かない。
いつの間にか抱き締めていた剣城の体は天馬の方を向いていて、向き合った体のあたたかさを受け止める二人の中に不安などなかった。
















【不変を思う】



















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高校生になって成長したのは身長や見える部分だけではなくなるんだろうなぁとか思いながら書いてました。
日常…と言うともっとほのぼのでわああ好きー!俺もー!みたいな感じを思い浮かべていらっしゃったのならすいません…!見方によってはほのぼのしてます。たぶん。

後天馬には京介の身長抜いてもらいたくないっていう個人的な願望があったので…いつもながら天京と断言できるのか微妙なところです。
途中京介だったり剣城だったり地の文ぽいとこで変わったりしてますが仕様です。

ねむね様、リクエストありがとうございました!!こんな感じでもよろしいでしょうか…?ビクビク
リク頂いたねむね様のみお持ち帰りと苦情、書き直し承ります!!お粗末さまでした!!


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