兎虎(T&B)


小さい丸テーブルを挟んで向かい側に座るバーナビーは綺麗で整っていると見るたびに感じさせるハンサム顔をこれでもかと歪ませている。不機嫌な顔は見慣れたものだが、最近はそんな表情も減ってきていたので実際は久しぶりなのかもしれない、などと考えながらも目の前のバディは不機嫌なままだ。どうしてこのような状況になったのか虎徹にはわからない。


しかし不機嫌な原因はきっとこのテーブルにあからさまに置かれた可愛らしいイチゴのケーキなのだろう。いつもだったら甘い世界へと誘ってくれる三時のオヤツの主役だというのに、今は不安を掻き立てる因子にしかならない。


「虎徹さん」

「っふは、はい!何でしょう!?」


思わず敬語になってしまったこともバーナビーは気にしなかったようで、おもむろに皿をガチャガチャ弄りだす。
いったい何が始まるのかと身構えたのもつかの間、眼前ギリギリにズズイと突き出されたのは尖った煌めく銀と、甘い香りかおる柔らかなスポンジ、それに乗る純白のクリーム。
そして、視界いっぱいの真顔。


「…あーんしてください虎徹さん」


その破壊力と言ったら、その状況を説明するパワーだけで能力を使わずに岩一つ破壊できそうだ。もちろん、感じているのは寒気のほう。

「え、えーと、バニーちゃん…?ちなみに何を参考にしたのかな?」

「折紙先輩が読んでいた恋愛指南書です」

「あいつなんてもの読んでんだ…」


バーナビー一人でこんなこと考えることができるはずがない。誰かの入れ知恵か参考書かと思ったら後者だった。しかもブルーローズやファイヤーエンブレムだったらわからなくもないが、よりによって折紙とは。

それにしても良くない状況だ。バーナビーは是が非でもケーキを食べさせようとするはず。
ケーキはいいが今回のことを流してバーナビーが差し出したケーキを食べてしまえば成功かと思ってまた同じことをしようとするだろう。しかも所構わず。それはいただけない。嫌な汗が背を伝っていった。

「あー…あ、バニー!俺そういえばダイエット中だったわ!だからそのケーキはお前が食べて」

「昨日貴方がイチゴのケーキが食いたいと言ったんでしょう」

「あ」

「それともなんですか、僕のケーキが食べられないなんて言いませんよね」

「そ、そういうわけじゃねぇけど…」

「じゃあ」

また皿に戻る手。もうこの状況になった時点で自分に逃げ場など用意されていなかったということらしい。
虎徹は覚悟を決めて、目を瞑った。


「…ふ、ぅぐ?!」

口に広がる濃厚な甘味が鼻腔を刺激した。
しかしそこで咄嗟に疑問が沸き起こる。バーナビーはあの恋人チックな王道イベントである『はい、あーん☆』をやりたかったわけじゃなかったのか。


「ん…ぐ」


目をつむった後口に当てられたのは冷たい鉄の尖った感触などではなく、もっと温かい、単的に言うとバーナビーの口だ。舌先で押し出されたクリームが構える甘味を広げさせる。


思わずバーナビーを引き剥がした。
どうなっているんだ。


「ど、こ…これはなんの冗談なんだバニー…!」

「冗談なんてとんでもない。僕は、ただ」

その時答えたバーナビーの声音は至極当然だというものだった。何を言い出すのかといった風に。その行為のどこがいけないのかと。バーナビーは不機嫌そうに、ため息をついた。

「フォークなんて媒体、元々僕らを妨げる障害としか成り得なかったんです」












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なんかもう末期の兎。おじさんが触れるものおじさんに触れるもの全てに嫉妬してる感じ。


 

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