ゼハアセ(age)




「ぶはあああ寒うっ!お前コートだけで寒くない!?」

「別に…そこまで」

「マジかよ」


さすがゼハートだな、と根拠がよくわからない感心をしてアセムは手袋をした手に白い息を吐きかける。それで暖かくなりはしないだろうと思ったが、以前出掛けたときも気休めと称して行っていたことを思い出し、黙って少し縮こまった背中を見て歩く。

スパイ活動を初めて半年が経とうとしていたが、すっかりアセムはゼハートに気を許してしまったようで、こうして二人でどこかに出掛けようと誘われることも増えてきていた。普段機械弄りや操縦訓練ばかりに熱を注いでいるため、たまには息抜きも必要だということらしいが、ゼハートには町をブラブラしながらウィンドウショッピングをしたりすることがストレスの解消に成り得るのか些か疑問であった。ヴェイガンでもちろん経験があることではないし、戦闘の技術や知識、日常生活に支障を来さない程度のことしか学んでこず、最近までコールドスリープで眠っていて理解できないのは仕方のないことかもしれない。それに今の生活は新しくインプットしなければならないことが多くて最初は少し戸惑ったことは覚えている。その上アセムが絡んで来るようになってからは監視対象のアスノ家の人間ということもあり一日の行動の観察、癖、性格や行動パターンなど、隙を見つけるために必要だと思われることを把握していった。出掛けることでストレスを無くすことができるならそれは必要な事項だと考えた結果こうしてアセムと行動しているが、その相手は別に私ではなくてもいいはずだ、と疑問を抱いたことはある。

アセムは正義感があり友だち思いで何事にも真剣に取り組み器用だが、感情的になる面も多く一度喧嘩になれば誰かが多人数かけて必死に止めにかかったとしても彼が納得しない限り怒りが収まることはない。しかし裏を返せばとても感受性豊かで他人のことでも親身になって考えることが出来るため、そこが彼の友だちの多い要因の一つであると考えていた。
その多い友人の中から付き合いもそこまで長くない私を選んだのは潜入作戦が順調に成功していると汲んで構わないのだろうか。それとも…。


「ゼハート…おい、ゼハート!」

「…っ、なんだ」

「なんだじゃない。さっきから何難しい顔してるんだ?俺の話聞いてなかっただろ」

「すまない…」


アセムはむっつりと気分を害したと言わんばかりに眉を上げ、私の顔を覗き込んだ。こうして怒っている彼はひどく子どもっぽい。
殆ど話は聞いていなかった旨を伝えると、今度は呆れたのか腰に両手を当てふぅと一つため息を吐いた。

「お前、もしかして疲れてるのか?休みの日もそんな眉間に皺寄せるなよ。…ほら、あそこのカフェ行って休憩しようぜ」

「いや…疲れているというわけでは」

「わかったわかった。お前の疲れてないは宛にならないっていうのはわかってるからさ」

「アセム…俺は本当に考え事をしていただけで」

「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら」

「っ、アセ」


手を取られて、引っ張られた。
容赦なく引っ張ったものだから反動で転びそうになるのをつま先に力を入れて耐え傾いた体を起こしたら、アセムの顔が眼前で笑っていた。


「そのかわり、パフェ一つお前の奢りな!」


外気は冷たく透き通っている。そしてアセムの手に触れてようやく私の手も凍てついていたことに気づいた。
感覚は麻痺しかけていて感触はほとんど無かったが確かにアセムはあたたかくて、自分の頬が緩んでいくのを半ば他人事のように感じながらアセムの手をゆるく握り返した。






【揺れるてのひら】















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ナチュラルにいちゃつく二人。でも二人とも自覚なしで特に進展も起きず主にゼハートがモヤモヤすればいい。
アセムはただの天使。


 

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