ユダイ(段戦)


この状況を喜ぶべきか嘆くべきか、いややはりどちらも当てはまるが若干ツラい方が大きい。
ユジンは自身のベッドの中で体を最大限縮こませ、隣で安心しきった様子で寝入っている彼に出来るだけ触らないように集中力を研ぎ澄ませる。
別に触るなと言われたわけではなかったが、一緒のベッドにいるというだけでユジンの理性ははち切れそうになっていて、彼はそれをおそらく分かっているからこそベッドで寝ることにしたんだろう。
試しているのだ、ユジンを。




それならばユジンはその挑戦を受けるしかない。受けざるを得ない状況にさせられていることもあるが、いい加減かなり年下である彼に弄ばれるのは大人としてのプライドが泣くというものだ。
隣に寝たくらいで涙目になっている時点で勝敗は決している気がしないでもないが、そこはもうユジンの性格上どうにもならないことである。
中学生にそうそう手玉にとられるわけにはいかない、と毎回思ってもどうしても強く出れずいいように使われてきたりしたが、今回こそはそんな誘いに乗らないぞ、とユジンは息巻いた。



それにしても彼の顔をまじまじと見ることができるのは寝ているときぐらいで、いけないと思いつつも彼の方へ顔だけ向ける。
まず目を引くのは閉じるとさらに強調される長い睫毛。
びっしりと隙間なく伸びたそれを見ると美しいと思うのと同時に感心してしまう。まるで人形のように整っていて、同じく整った彼の鼻筋だとか、肉が削がれた頬のラインだとか、起きているときはひそめられていることが多い眉も、今は真っ直ぐで随分年相応に見える。
平常から大人っぽい彼の寝顔はとても貴重で、少し前までは他人を寄せ付けないオーラを全面に纏っていたのに、まさか隣で寝ることを許される日が来るなど思っていなかった。


かわいい。


その一瞬で胸中を締め付けた心地よい苦しみは彼を少し大胆にさせた。
ただ夜中のよく解らないテンションに身を任せてしまっただけとも言うが、それほどに仙道の寝顔は魅力的であった。




カスミ色の髪に手を伸ばす。手を置くとじんわり熱が伝わってきて、心まで温かくなるようだった。
頭から顎のラインをなぞるように手のひらを滑らせ、視線は自然と無防備に開いた唇に吸い寄せられた。
女の子のように厚くはないけれど、艶があって、色の良い。



「ぅ…ん」

ユジンの肩が跳ね上がる。彼が寝返りを打っただけと確認できて、胸を撫で下ろした。
しかし寝返りのせいで彼は向こう側を向いてしまう。それだけですごく寂しく感じてしまって、ユジンはきゅうと眉を寄せた。



「…仙道くん」


ぽそりと口をついて出た彼の名はもう呼び慣れたはずなのに何度でも呼びたくなるぐらいの甘美な響きで、背中ごしにまた口を開く。



「仙道くん…仙道くん」




どうしてこんなに彼が愛しいのか。どうしてしがないオタクの自分の側にいてくれるのか。
趣味は合わないし性格もまるで違うし、なにより彼はキレイだ。そういった見目の部分でユジンは気を使ったことはないから、外を歩いても釣り合うことはない。
それでも、ユジンの心は決まっている。








「仙道くん、………ダイキくん」



彼のしなやかな首筋に顔を埋めた。シャンプーのいいにおいがした。頬が緩む。





「愛しています」








好き、では足りない。
溢れる自我はきっと思い違いなどではなくて。
いつもは恥ずかしくて言えないけれど、夢の中だけでも君に伝わればいい。



















「…キスくらいすればいいのに…ほんと、ヘタレで困るねぇ」


ユジンが寝息をたて始めても、仙道の熱は治まらない。
強がって口に出してはみたもののさっきの言葉を思いだしてしまって自己嫌悪に浸る。
こういった甘い空気は苦手だったはずなのに、いつの間にほだされてしまったか。
何にしても柄ではないし似合わない、と思いつつ、気楽に眠るユジンの口を啄んだ。






「残念だけど、俺もだよ」











【素直になれない君たちへ。】
















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仙道さん受けは郷仙派が多い中実はユダイ派だったりします。
歳の差たまらん



 

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