天京
天馬がいつもの調子でしつこく誘うので、病院帰り、親に夕飯に呼ばれた旨を伝える。
木枯らし荘には既に何回か来ていたので天馬には先に帰ってもらっていた。それがいつもなら一緒に帰るといって聞かなさそうなのに、今日はすんなりと言うことを聞いた。何事だろうと思ったものの特に気にもせず木枯らしまで行きチャイムを鳴らすと、数秒待たずインターホンに天馬が出た。オレじゃなかったらどうするつもりだ、と呆れるように言えば剣城だっておれにはわかったの、という反論になっていない反論を返される。
やけにニヤけた顔の天馬に部屋まで通されちょっと待っててと言い残され暫く待つ。
毎回のことなのだがあたりが天馬の匂いばかりで落ち着かず、雑誌を読もうにも場所がわからなくて物色するのは気が引け、何となく目に止まったベッドの上の毛布に手を伸ばした。体いっぱいに入っていく天馬の香りに包まれて、部活での疲れがふっと睡魔を呼んでくる。うとうと仕掛けた途端、ドタドタとうるさい足音が聞こえたため慌てて毛布をベッドに放った。
「お待たせ剣城!…どうかした?」
扉を開けた天馬は放り投げたときの異様な格好に気づいて不思議そうに首をもたげる。
「何もない。それより、準備できたのか」
「あ、うん!今持ってくるね」
「…手伝う」
「ありがと!」
ほこほこと湯気を立て食欲をそそる料理たちは秋に手伝ってもらったとは言えほとんど天馬が一人で作ったものらしい。どうやら夕飯に誘われたときから誇らしげだったのはそのせいだったようだ。
まずスープに手をつけようとすると天馬はこっちをジッと見つめ、どういう反応をするのかすごく気にしている様子だった。冷ましてから口に持っていくところまで凝視していて、天馬に見つめられるのが苦手としているこちら側としては非常に食べづらいのだが、なるべくそっちを見ないようにスープを啜る。
「どう?剣城、どんな感じ?」
「…うまい」
「ほんとー!?やった!ありがとう剣城!」
「なんでお礼言われなきゃなんないんだ?」
「剣城が始めに食べてくれたから!おいしいって言ってくれた始めての人が剣城だっていうのがすごく嬉しい」
実際料理はとても美味しく感じた。贔屓目を差し置いても充分なくらい。
そしてこの料理が他の誰でもない、自分のために振る舞われたというのだから、今喜びを顕に満面の笑みをしている天馬ぐらいには、嬉しいことだったりする。
そんな中、天馬のテンションに飲まれ、本音が出てしまったのも仕方のないことだと割り切りたい。
「天馬」
「ん、なに剣城」
「お前、オレに嫁げ」
「…え?」
「嫁になれって言ってんだ。…返事は」
"え"の口で固まった天馬を軽く小突くとハッと焦った様子で餌を求める鯉のようにパクパクし始める。
「は、は、はいっ!喜ん、で?」
「なんで疑問系なんだ」
「えー…だって剣城唐突なんだもん…心臓に悪いよ…それにさぁ」
「あ?」
「どうせならおれが剣城をお嫁にほしいなーって」
「…は、ぁあ!?」
ぼぼぼぼ、と体の芯から熱が沸き上がった。
青だか灰だかの入り交じった目がまたそうやって見つめてきて、目が合った瞬間微笑んできて、だから苦手だって言っているのに。
「でも、いいよ。京介がそう言うならおれがお嫁さん。幸せにしてね、京介!」
もう隠しようもないくらい真っ赤になっているのはわかっているが、それでも認めたくないと思ってしまう。強情だったり、意地っ張りなところもあるよねと以前兄さんに言われたことを思い出しながら、けれどやっぱり視線を合わすことはできなかった。
「…飯は、毎日味噌汁作れよ」
「もちろん、京介のためなら!」
【主義主張だって全て受け入れますとも!】
(京介は料理作れないの?)
(前やったときは塩と砂糖間違えてとんでもないことになった)
(ど、ドジっ子特性…だと…)キューン
(?どうした天馬)
(やっぱり京介が嫁にならない?)
(ばっ…かかお前!オレはお前みたいにかわいくないし第一オレの方が背が高くて…ゴニョリ)
(京介…っ!)キュキューン
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やぶてんまが女子力高いのと京ちゃんに嫁に来いと言わせたかっただけです。
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