円鬼(+天京)


練習が終わって静寂が支配するサッカー棟1軍の部室の近くを通ったとき、人の気配と話し声が聞こえてきた。まだ残って遊んでいるのかと少し耳をそばだてると、声の元は2人らしい。変声期を迎えていない高めで通りのよい少年の声と、既に変声期を終えた低めで落ち着きを持った少年の声だ。しかし2人の会話は途切れとぎれで、他愛のない会話と言うには些か不自然であった。


鬼道はそろりと部室の扉に耳を当てる。本来聞き耳など言語道断だと思うだろうが、そこは鬼道も人の子、ほんの僅かな好奇心が働いたのである。


「剣城、約束ちゃんと覚えてるよね?」

「…あぁ」

「よかったぁ!これでまたそんなことは知らないとか逃げられたらどうしようかと思った」

「オレをお前との約束破るようなクソ野郎とでも思ったのかよ?」

「っそ、そんなこと」


どうやら剣城と、声の感じからもう片方は松風のようだ。何をやっているのだろうか。約束とは、何のことだろう。
そうこう考えているうちにも二人の会話は進んでいく。会話の雰囲気からどうやら二人は付き合っているらしかった。少し驚いたものの、人の色恋沙汰に口を出すのは野暮というもの。…とは言え、気にはなるものである。

暫く様子を伺っていると、段々雲行きが怪しくなってきた。松風が声を荒げる。


「こないだはいいっていったじゃない剣城の馬鹿!わからず屋!」

「わからず屋はお前だ、ここでやれるわけないだろう!まだ監督やコーチが残ってる可能性だってあるんだぞ」

「約束したのに…」

「今日の約束はオレと残って、一緒に帰るってことだったはずだ」

「わかってるけど…だっておれ、剣城と」

「場所を選べって言ってるんだ。…お前とが嫌だとは言ってないだろう」

「剣城…」

「…」

「じ、じゃあ、…今日はキスだけ」

「ん…わかった、天馬」

「…京介」



そこで鬼道は扉の側からそっと退いた。松風たちがいつ出てくるかわからないからだ。これ以上聞いていては見つかってしまう可能性がある。
鬼道はサッカー棟廊下を早足で通りながら思わず口元を手で覆っていた。側に誰もいないから良かったものの、今の腑抜けた赤い顔を見せるわけにはいかない。


先ほどの松風たちの会話を映像つきで想像してしまったその時の自分に叱咤したい。不甲斐ないことだがその想像で自分と重ねてしまったのだった。
相手の熱い吐息、絡み合う視線と触れ合う肌、鼻孔に香る相手の匂い。
最低だ。教え子からそんなことを想像してしまって。
咄嗟に浮かんだ“相手”が自分に笑いかけた。




「お、鬼道!なんだまだいたんだ」

「!!?」


全身の毛が逆立つぐらいびっくりして、持っていたファイルを落としてしまった。円堂は妙な行動に不思議そうな顔をしながらファイルを拾い上げ鬼道に渡す。


「何してんだ鬼道」

「お前がいきなり声をかけるからだ…」

「あ、あぁごめんごめん」


よりにもよってこのタイミングで会うとは思わなかった。鬼道にとって最悪とも言える事態だ。
なんとか円堂に気づかれまいとこの場に適当な理由で退散しようと考えたが、それより早くいつもは鈍感なくせに変に鋭い円堂の特性が発動してしまった。


「鬼道、なんか顔赤くないか?」

「…いや?気のせいじゃないか?」

「赤いと思うけど…あ、もしかして体調悪い?ほら、鬼道ってそういうこと隠そうとするし」

「だから気のせいだと…」

「まーたお前隠し事か?レジスタンスのときもう俺にはしないって約束しただろ!」

「なッ…!」


円堂は現役から衰えることのない握力を存分に使いガードしようと咄嗟に出した鬼道の腕を片手で押さえ込み、もう片方で緑のメガネを外すと、半ば頭突きのように鬼道の額へかち当てた。ごつりと鈍い音がして気が飛びそうな衝撃と痛みが鬼道を襲った。思わず歪む顔と対照的に円堂は真剣な表情だ。

「ちょっと熱いかなぁ…鬼道いつももっと冷たいし。やっぱ熱でもあるんじゃ」

鬼道は何も言うことができない。痛みが増す額と間近で覗き込む妄想相手。
メガネも外されてしまったから誤魔化しも聞かず、熱は上がっていくばかりだ。
離れてほしい、お願いだから。これ以上くっついていたらどうにかなってしまいそうだ。
そして願いとは裏腹に円堂は強引な検温体勢のまま、動かなくなってしまった。


「なぁ…鬼道、やっぱりお前の目、キレイだな」


それがなんだと。いつもなら軽口に乗せて返すことができる。
息使いが聞こえる。荒いそれが鬼道のものだと円堂はとっくに気づいてるはずだ。
早く熱だと言い張らなければ。その通りだと、お前の言う通り体調が悪いのだと肯定してしまえば済む話なのに。

「鬼道」

うっすらと円堂の目が細められる。10年経って昔のようなあどけなさと、大人の色香も武器につけた彼に鬼道はどうすることもできなかった。
なにより、する気もおきなかったのだ。


「鬼道、キスしてほしい?」

「狡い聞き方だな…」

「俺だって大人になったんだぜ」

「そうだな。…してくれるか?」

「もちろん」


ゆっくりと瞼が落ちた。
想い描いたのと同じく、熱く、優しかった。














【あなたからしかもらえない】



























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天京ちゃんの約束が曖昧になってしまいましたが一緒にちょっとイチャイチャしながら帰ろうっていうのを天馬が勘違いしてあはんでうふんな事にも手を出そうとしたので京ちゃんがキレて天馬が逆ギレした感じです。
GOでの円堂さん攻めは夏美さんがいるのでちょっと敬遠していたんですけど監督コーチの間柄ってやっぱおいしいよなぁと我慢が出来なくなりました←
今に始まったことじゃないけど鬼道さん円堂さんのこと好きすぎじゃねーの
補足多くてすいません


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