蘭マサ

女装ネタ/




昼休み、天馬たちと机を固めて弁当を広げる。中学生男子が持つには些かかわいいピンクのナフキンで包まれた天馬の弁当は色とりどりで美味しそうだ。もちろん、他の二人の弁当も。
狩屋は冷凍食品が肩を並べる自分のものと見比べて、うっすら笑って目付きを悪くした。


「ねぇ、トランプしない?」


「え?いいけど…まだ昼食べてるじゃない」


西園が小さい手でせわしなく箸を動かしながら問う。


「うん。だからおかずを少し残しておいてさ、勝ったやつから好きなおかずを貰っていいってことにしようよ。ただトランプやるだけじゃ詰まらないだろ」


「へー、面白そうだね!俺やるよ!」


「天馬がやるなら僕も!」


狩屋は得意の表の笑顔で、決まりだねと残っていたポテトをわきに寄せる。
その真似をして天馬がカラアゲを、西園は卵焼きをよけた。


しかし、空野だけ少し思案するように顎に手を宛てている。
松風たちも気づき声をかけると、空野は思い付いた、とばかりに手を打った。


「じゃあ最下位の人は罰ゲームすることにしよう!」


「罰ゲーム?」


松風が聞き返す。


「そ。トランプで一番負けた人はお弁当も貰えないし、一番勝った人の言うことを絶対実行すること。いい?」


松風たちがそれを了承してしまったので、狩屋はそれに乗るしかなくなってしまった。4人いるし最下位にはならないかな、と安易に考えるが、何故か嫌な予感しか起きない。
最初に言い出した手前降りることもできず、括る腹もないままゲームは始まった。




















浅はか。
今こそ過去の自分の考えをそう揶揄したこともないだろう。
目の前の神童は事態を掴みきれずに瞬きを繰り返す。


「…似合ってる、と言えばいいのか?」


「いやそれは止めてくださいキャプテンマジ俺の心折れるんで既にバッキバキですけどね」


「わ〜狩屋かわいい〜」


「………クッ…」


「あ、珍し、剣城が笑ってる」



あの剣城が笑うほど面白いなんてレッテルなど心底いらない。段々羞恥で顔が火照ってくる。




狩屋はババ抜きの優勝者、空野葵によって女装の刑に処されていた。
たかが暇な昼休みの罰ゲームでここまで体を張らなければいけないか疑問も抱いてみても、今の現実から逃れたい者の逃避行為としか見なされない。実際その通りではあるのだが。
逃れたい一心で抵抗してみたが空野はノリノリで自分の制服を持たせ着替えてこいと押されれば流れに任せるしかなかった。



「足がスースーすんだけど…」


「大丈夫よ、いつもユニフォームは短パンじゃない。変わらないわ」



変わらないわけがない。
下を覆う布がないとこんなにも心細いのかといつも履いている女子に単純に感心しながら規定である30分という時間を必死に耐える。
幸い神童を始めとした先輩陣はまた面白いことを、とふざけてやっていることをわかってくれて、三国には頑張れよと肩を叩かれチロ◯チョコのプリン味を貰った。
30分の間、写メを撮られたりスカートを捲られたり右側頭部にオレンジの花がついたヘアゴムでおちょんぼを作られたり散々からかわれたが、なんとか乗りきりその頃には精神的に参っていた。



部活の面々は練習のためグラウンドへ向かい、狩屋は脱ぐのが勿体ないとほざきながら出ていった松風たちに後でどんな仕返しをしてやろうかと頭をフル回転させる。


それにしても弁当のおかずをちょっぴりわけてもらおうと思っただけなのにとんだ誤算だと自然にため息がおちる。負けたのは言い出しっぺの法則か、それとはまた違った悪意を感じなくはなかったが今はこうなった原因よりも現状自分のふざけた格好をいち早く変えることが先決だ。
やるからには徹底させようと空野が無理矢理履かせたスカートの下の短いスパッツと紺のハイソックスを脱いで、胸元のリボンをほどいたその時だった。







「あれ、狩屋?…なんだその格好」





その声が鼓膜に届いたと同時に嫌な汗が吹き出した。
心臓をぐっと掴まれているかのように圧迫されて呼吸が荒くなる。
この人には見られたくなかったのに。


「霧野、先輩…」


「ふぅん…何があったか知らないけど、可愛い格好してるなぁ狩屋」



花のような笑顔とは霧野のためにあるのかと錯覚してしまうほどキレイに笑って、ロッカールームに入ると後ろ手にドアを閉め鍵をかけるのが見えた。
初っぱなから霧野の裏の顔が全開になっていることに狩屋は恐怖しか抱かない。
この人の方が、表裏を使い分けるのが上手いことに気づいたのは入部して、最初霧野に悪戯を仕掛けていた直後のことであった。



「今日、部活休むって聞いてたんですけど…」


「用事があると言ったけど休むとは言ってない。思ったより早く終わったから急いできたんだ。俺が来て嬉しいか」


「はぁ…」


「嬉しいか?」


「は、い」



有無を言わせない口調に思わず声が上擦る。
うっすらと唇をしならせて徐々に近づいてくる霧野を狩屋は見ているしかできない。


二人の距離が僅か十数センチまで縮まると、霧野は右の手を伸ばして狩屋の頬に掌を被せた。そこからスルスルと撫でるように移動させ横の髪を耳にかけて、あんぐと口を開いた。
捕らえた狩屋の耳にかじりつき耳たぶを舐める。背筋から這い上がる気持ち悪さに狩屋は体を振るわせた。


「どうしたんだ狩屋、大丈夫か?震えてる」


「ぁ…、霧野センパ、イ」



狩屋はふらついて後ろのロッカーにもたれ掛かる。
あんたのせいだろ、と盛大に罵倒を浴びせたかったが、上手く声は出てくれなくて名前を呼ぶに止まってしまった。それに気分を良くしたらしい霧野は耳を弄る行為を続ける。
狩屋の肩に手をかけて距離を更に無くし耳の裏筋を舐めとり全体を甘噛みすると、今度は耳の中に下を浸入させてきた。


「…ッ…!」


這う感覚に耐えてきた狩屋も突然の挿入に対処できず、足の力が抜けて膝が折れる。


体勢が崩れた狩屋を受けとめゆっくりと尻を地面につけさせた霧野は狩屋を上からぎゅうと抱き締めて、囁いた。



「俺のためにそんなカッコしてくれたんだよな?」


「ッ!?ち、ちが…っ」


「…シていいか?」


「い…!、いやです!」


「大丈夫だ。ちゃんと気持ち良く、するから」




そういう問題じゃ、開きかけた口は格好のエサにしかならなくて、餌食となった自分自身は精神に反し過剰に反応してしまう。このままでは全て引き込まれるのも時間の問題である。
既に押し返す気力も無くなった力のない腕で前へ伸ばしたら、霧野の細い指が絡まった。



「狩屋、抱かせろ」



このまま断ることができないことをこの人は確信している。いや、もし断っても強引に推し進めるのだろうが。


見えるか見えないかわからないくらい、ほんの小さく首を下に動かすと降ってきたキスの嵐に狩屋は体を硬直させた。
膜が張った瞳に瞬間写った霧野は、それはそれは恍惚とした表情を浮かべていて、不覚にも疼くようになった下半身を押さえ込めるよう霧野を睨みあげた。
それが霧野を煽る材料となることにも気づかずに。






【往生際の悪さが取り柄なので】





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