京磯

だんだんと小さなターコイズの目が赤く染まっていく。口元を押さえようにも、その手は京介が握っていて、歪ませた眉間や唇を隠すことも出来ず、ついに磯崎はうつ向いた。結っている一房の髪が肩から落ちる。

ホロホロと目頭から溢れる滴はうつ向いたことで睫毛を伝って京介の足下を濡らしていく。
声を上げないように必死に噛み殺して漏らす嗚咽はしゃくり上げる息遣いと鼻を啜る音とでなんとも情けなかったが、わんわん鳴る頭をどうにも出来ずに真っ白な脳は泣き続けるしかなかった。


それを京介が止めることが出来ようか。泣くなと、上っ面だけの薄い言葉で磯崎を泣き止ませようなど。
やめろと言うのは簡単だった。けれど握った両手にこもる力ばかり強くなって、どうにも出来ない自分の心の弱さを卑下する。


「きょ、す…けぇ」

磯崎が歪んだ口元のまま京介を呼んだ。語尾が叫ぶように高くて、どく、と心臓が鳴る。


「どうしてくれる」

「…なにを」

「京介が、」

「…」

「京介が、京介しか…、京介しか見えなくて」


消え入りそうな声で息を吐き、そこで言葉を切った磯崎は耐えきれなかったのか声を漏らして京介に頭を寄りかからせた。濡れそぼった睫毛が京介の制服に触れて染みる。
握った磯崎の手は熱くて汗ばんで京介の氷のような掌に包まれてもなお損なわなくて、偽りではないこの涙のわけを京介に響かせていた。




「だったら、オレしか見るな」



握っていた手を離せなくて、上から降らせた冷たいとも取れるぶっきらぼうな声に磯崎がやっと頭を上げた。無駄に幅のある白目が赤くて面白い顔だと瞳にキスする。


しょっぱくて甘い。
握り返された手は案外しっかりしていた。










【どうぞ、よろこんで】

(盲目になるのも構わない)


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