京天

「おい、そっちボールいったぞ!」

朝から視界がおかしい。時々歪んだり、回ったりしそうになる。サッカーをしていなくてもどくどく脈に響く心臓はいっこうに静かになってくれない。吐く息が熱かった。
ぐらぐら揺れる頭は上手く動いてくれなくて、可笑しな返答を返したかもしれない。ヒリヒリする喉は水分を求め、秋が用意してくれた水筒2つは昼すぎには飲み干してしまった。

「天馬…?どうしたの、天馬!」

ああ、熱があるんだと気づいたときには時既に遅しというやつだ。
痛みを伴う鈍い音が頭蓋に響き、誰かがやけに焦った声で名前を呼んだ。
いつも、それくらいおっきな声で呼んでくれたらいいのに。

呟ける口は既に閉ざされていた。




























うっすら瞼を震わせて捉えた視界に写ったのは深い紺のトンガリ。それからこっちを見つめている金の瞳だった。


「…つる…ぎ?」


聞くまでもない、はっきり認識していたが乾いて張り付く舌が上手く動かせなくて疑問系になってしまう。
剣城はムスッとした顔で天馬を見下ろしていた。


「なんで言わなかった」

金が歪んだ。
わからなかったんだ、まさか熱があるなんて。
なんて言ったら自分の体だろうと怒られるのが関の山だ。ぼんやりする思考を働かせる。

「大丈夫だと、思って」

「大丈夫じゃない。自分の体だろう、それくらい分かれ」


結局怒られてしまった。すこしションボリ項垂れると、剣城はため息をついて側のイスからベッドに移ってくる。


「もうじき部活も終わる。円堂監督が家まで送ってくれるらしいから」

「おれ、どうしたんだっけ?」

「熱でフラついてたときにボールが頭に当たったんだ」

「ボール?誰の?」

「……」

「ねぇ」

「……」

「ねぇ、剣城」

「……オレの」

「剣城の?」

「…」


剣城はバツが悪そうに窓の方を向いてしまった。
本当は直前だけ覚えていて倒れる前に見たのがいつものクールな表情を捨て顔面蒼白になった剣城の顔だったのだけれど、この様子だと結構気にしているようだ。
剣城がさっき怒ったように、今日の事故は天馬が体調管理できていなかったせいで招いたものだ。それでも責任を感じて保健室まで連れてきて、目が覚めるまで側にいてくれた。
少しずつ、頬の筋肉が緩んでいく。


「優しいね剣城は」

「何がだ」

「別にぃ?」

「…大人しく寝てろ」

「う、わぷっ」


頭を押されて枕にダイブする。
そしてふいに剣城はちょうど手の届く机に置かれたペットボトルを掴み、天馬の額に当てた。
水滴がついたペットボトルはヒンヤリと冷たく気持ちがいい。思わず目を閉じて息を吐くと、頭に手が置かれた感触がした。
ぎこちなくゆるゆる動かされるそれは少しくすぐったかったが、剣城の長く細い指が髪をなぞるたび言い様のない快感が天馬を襲った。

「きもちい…」

睡魔が込み上げて瞼が重くなる。また頭が夢の世界に吸い込まれるような感覚を覚えた。


「天馬」


眠りに足を突っ込んでいた天馬がうっすら目を開けると、いつの間にか額から離れていたペットボトルに剣城が口をつけていた。
そういえば喉が渇いたかもしれない。


「つるぎ、おれも水…」


剣城は頷いてペットボトルを差し出す。
…と思った。天馬の想像では。

しかし天馬がしゃべるために開けた口はまた閉じられていた。自身の意思ではなく正に他意によって。
口腔内が生暖かい液体でいっぱいになる。思わず飲み下すと食堂を流れていく感覚がして、飲みきれなかった水が上下した喉の上を伝っていった。

熱に浮かされているからだろうか、渇いた唇を潤すようになぞった舌の冷たさがリアルに感じて逆に現実味がない。
剣城が離れた瞬間に天馬は剣城の頭を両手で捕らえた。かち合う金と蒼。


「きょうすけの、あじがした」



見え隠れする金が少し見開かれて瞬く。じゃあ、と頭を撫でたしなやかな指も天馬の頭の後ろに滑る。


「じゃあ、もっと味わえ」

剣城は両腕をすり抜けて、熱が移り溶け合うように重ね合わせた。












混ざるまじる


(その中で求めるものはそれ以外に在りはしない)























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京天ちゃんの日記念。
これぞやまなしおちなしいみなし
定番ネタをことごとく殺してるような気がする。
気のせい。

京天ちゃんも愛してるよ////

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