天京

眼前に突きつけられたそれがこっちを見た。なんとも言い難い不細工な顔をしている。天馬に摘まれたヒモの部分が振動でまだ横に揺れている。


「…なんだよ、これ」

「うさぎ!」

「ウソつけ!オレの知ってるうさぎは少なくとも紫じゃねーし今にも死にそうな目なんかしてねぇ」

「えー…かわいいじゃん」

「ど こ が」


天馬曰く“うさぎ”であるらしい生物のカタチをしたストラップを四方から見直し出した結論に突っ込みを禁じ得ない。センスの問題もあるがどこで手に入れたのかも気になるところだ。
わざわざ他クラスまで授業と授業の合間の休み時間に来て、また教科書を忘れたのかと思えば見せたいものがあるとゴソゴソとポケットを探って出てきたのがうさぎとは名ばかりの不思議生物。呆れるしかない。
興味を示さない剣城が不満だったのだろう、天馬が拗ねた様子で頬を膨らます。


「せっかく剣城のために買ってきたのに〜」

「は?」

「昨日さ、秋ねぇと一緒に商店街まで買い物に行ったんだけど、こういうストラップ売ってた露店があって…」





『あ、天馬、あそこの露店寄っていってもいいかしら?』

『いいよ!何か買うの?』

『この間国際電話がかかってきてね、あの人が私とお揃いのストラップが欲しいって』

『アメリカの恋人さん?』

『う、うん…。私が選んだものがいいって言うものだから、送ってあげようと思って…』

『ふーん…お揃いかぁ…』

『天馬も何か買ってあげようか?』

『いいの!?』

『HRがんばって勝ち進んでるから、ご褒美よ』

『じゃあ……おれも、』










「お揃いのストラップが欲しいって」

「言って、買ってきたのがこれだって?」

「そう!」



そのアメリカの恋人とやらを少し恨んだ。
簡単に触発されすぎではないかと思いつつ、嬉しそうに期待の眼差しを向ける天馬が眩しくて正直断れない。
躊躇いながらも控え目にそのうさぎであるらしいものを受けとると、パアと顔を輝かせ天馬が笑う。可愛くて頬がニヤけそうになるのを必死でこらえ、平静を装いそのストラップをポケットにしまおうとすると天馬からストップがかかった。
突然掴まれた手首に目をパチクリさせる。


「な、なんだよ」

「今つけて」

「はぁ?」

「ストラップ、今つけてよ」

「なんで」

「おれのと並べてみたいんだ」


天馬の上着のポケットから黄緑のケータイには色違いだが同じ形をした水色のウサギが顔を出した。


「それ…」

「紫は剣城の色だろ?おれはなんとなくこの色かなって」


どうやらイメージカラーで選んだらしく紫はきっと改造制服の色だろう。イメージというかそのままだがなんとも天馬らしいので何も言わないでおく。しかし無意識に顔が綻んでいたのか天馬がなんで笑ってるの、と問いかけてきた。


「いや…自分の色貰ってもしょうがないだろ」

「そうかな…」

「だからお前のくれよ」


掴んできた腕で天馬の手首を掴み返す。触れた一瞬ビク、と天馬が反応して剣城を見やった。



「オレを付けててもしょうがない。お前がいい、天馬」


それが当然、あるべき姿だろと開き直った剣城だが、天馬はフリーズしたかと思うとみるみる頬を赤く染めていく。



「…」

きっとそのまま同意してくれると思っていたのだがその様子が予想外でびっくりした剣城も釣られて顔が火照る。





「よぅ、今日もお熱いね御二人さん」


2人してどうしていいのかわからなくなって固まった全くの手詰まり状態に、通りすがった狩屋がニタニタと茶化していった。



「…剣城」

「…」

「交換、しよっか…」

「…あぁ」










【お揃い!】








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よく中・高のとき友だちとやったなーっていう

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