1周年 | ナノ

いまこの瞬間だけ、世界は俺のためにある!



ヒタ、と置いた手のひらを目の前のこいつは退かす気など毛頭ないのだろう。野蛮なこいつに力で勝とうとすれば僕の美しい顔が苦痛に歪んでしまうかもしれない。美しいものが醜くなるのは誰も望まないからやらないだけ、そういうことだ。
だから屈辱な上に痛みを伴っているこいつの行動の意味がわからず頭がフリーズしたせいで精巧に彫られた彫刻のようにその場に存在するしかないなんてあるはずがない!

「俺様にビビってるか?ビビってるな?いつもより随分大人しいじゃねぇか」

「ぐぅ…、だったらその手をはにゃせ」

ザナークに片手で両頬を挟まれ顔を付き合わせなければならない状況に置かれていることが屈辱的でどうにかなりそうだ。僕の麗しい口は今タコのように尖ってしまっている。いくらこいつだとはいえスマートとは言えない姿をいつまでも晒して、羞恥心に耐え難い杭を打ち込み再起不能まで追い込まれてしまう。ただでさえ綺麗な顔を何度も傷物にされているしそろそろ僕の価値を知るべきだ。そもそもなぜバイク型ルートクラフトで突然現れシャワールームにいるところを襲われ服も着せて貰えず顔を潰されているのか。水を弾く白玉のような肌を眺めたい気持ちも理解できないではないがこいつに見られて嬉しいなぞ思うほど奇抜な趣味を持っているなんてことは断じて否定しよう。しかし抵抗が出来る相手かと、考えている余裕もないことが苛立たしくて堪らない。しかも通信機も全て外しているものだから助けも呼べないという、なんと用意周到なことか。

「おいじゃにゃーく!僕にょうつくしい顔にこれ以上傷つけふとどうなるかわか」

ニヤニヤと見下す下卑た笑みを浮かべていたザナークがすっと目を細めたかと思うと、頭を並行に後ろへ下げた。何か構えた格好の。

…まさか。

ザザッと次に来る衝撃を想像して青ざめた瞬間、割れるような激痛と反動で首が折れたかと思うほど仰け沿った。恐竜とやりあっても勝てそうなくらい頑丈そうな奴の額から繰り出された頭突き。するときに離された頬の指の感触もそのまま摩擦で瞬間ヒヤリとして熱が来る擦過の傷を残していることだろう。痛みで声が出ない。息が詰まって自然と涙腺が開いた。

「俺が何してるのかわからないって顔してやがったな。ま、そうだろう!俺だってよくわかってないんだからよ」

「…!?どうい…あぐっ」

「そう言うと思ったぜ…」

衝撃に耐えられず狭いシャワールームの個室の壁に頭を打ち額や頬の傷だけではない二次災害を引き起こしたボロボロの体を見下ろしたかと思うと視線を合わせてしゃがみ、首を掴まれた。
気道が塞がれる。掠れた声も喉を通る前に遮断され脳まで圧迫されている気分だ。ぜ、ぜ、と不規則な呼吸がザナークにかかった。

「言い眺めだぜ」

鈍痛と息苦しさに意識が遠のき始め霞む視界にはやけに真剣な表情があって、それを確認すると同時に僕の意識は奈落へと転落して、暫く還ることはなかったみたいだ。





完全に気を失ったガンマに舌打ちをかまし、だらしなく半開きになった口元を弄るように唇を落とす。
意気がってこない舌を絡めて吸いつくと、とりあえず満足といった感じでシャワールームから出、外に置いてあった私服とタオルを持ちぐったりしたガンマの首と膝の裏に手を入れて担ぎ上げた。

「さて、どこまで連れていこうか」

不敵にしなる孤月の弓をしならせ飛び出した行く先は彼の心次第だ。





いまこの瞬間だけ、世界は俺のためにある!


(これから作る世界)


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