サル天



※ラグーン戦後なのでアニメ派の方ネタバレ
注意



























ラグナロク後すぐに天馬たちは現代に帰るというのでそれはあんまりだと、駄々を捏ねて1日滞在してもらうことになった。天馬たちが帰ればその後すぐにワクチンが投与されることになる。了承したものの今まであった自身の力が失われることに抵抗がなかったわけではないし、それも含めて寂しいと感じのかもしれなかった。

「サル!」

「天馬、湯加減はどうだった?」

「すごく気持ちよかった!皆も喜んでたよ」

「そう、それならよかった。作った甲斐があったよ」

「わざわざおれたちの時代の風呂に合わせて作り直しちゃったもんなー…やっぱりすごいよ、サルたちは」

タオルを首にかけてほかほかと蒸気を登らせる天馬はうんうんと頷き感嘆の声を漏らした。その様子がなぜだか年寄り臭くてサルは思わず吹き出してしまった。

「まぁ…便利だけど万能ではないし。天馬たちが入った風呂もスタジアムの一部をちょっと拝借したしね」

「そうなんだ……、て、え?」

「おじさんたち怒ってるんじゃないかなー…勝手に使っちゃったから」

反省する気は元々ないらしく悪戯っぽく笑うサルに驚きながら、天馬も釣られて笑った。

「あーあ、今日は疲れたね」

「うん。あれだけ本気を出したの天馬たちが初めてだったよ。本気で戦って、敗れたのもね」

力の繋がりではなく想いの繋がりだとわかった今、以前感じていたプレッシャーが薄れていた。
エルドラド相手に戦争を起こしてからフェーダをまとめて、引っ張ってきたサルにとって落ち着ける場所などどこにもなかった。落ち着く必要もないとすら思っていたほどだ。フェーダは世界をまとめてSSCの存在を認めてもらうまではなりふり構う余裕もなかったように思う。短い寿命の中でどれほどのことができるかサルも必死だった。必死に抵抗して身勝手な大人たちに対抗するしか自分がなぜ存在してきたかもわからなくなる。そんな不安定な絶壁で手を取り合いやってきた仲間、それがフェーダだと教えてくれたのは天馬たちだ。
そもそも天馬たちは自分たちSSCが生まれる元となった遺伝子を持つ人たちという原素の繋がりに少し興味を持っただけのことであって、進化した後の自分たちが負けることなど想定外も想定外の事態だった。今まで力を使わなくとも優秀な遺伝子で構成されたSSCに敵はいないと思ってきたし実際にはいなかったのだから、敗北をなかなか認められなかったのはしょうがないことだ。それに、エルドラドとやる以前に負けていたとしても少々負けず嫌いな遺伝子が体に含まれていることをラグナロクで自覚することができたことにも感謝している。

「天馬たちは僕たちより強かった。サッカーだけじゃなくて繋がりでもね。それに気づかせてくれたのが天馬たちだったことを嬉しく思うよ」

「サルたちだって、皆思いで繋がってた。絆で繋がってた。おれたちもサルたちと繋がってまた友だちが増えた。そうやってたくさんの友だちと繋がれたら楽しいし、サッカーだって喜ぶよ!」

「ふは、そうだね。天馬はサッカーともトモダチなんだ」

「うん!サッカーはおれの一番大切な繋がりなんだ」

本当に幸せそうに、本心から話していることが力を使わずとも伝わってきた。雷門も、きっとこの笑顔と純真さに救われてきたんだと。

「…天馬、ちょっとこっちおいで」

「?どうしたのサル」

まだ生乾きの天馬の癖っ毛がシャンプーの香りと共に近づいてくる。胸が高鳴る。これはトモダチとしての感情だろうか。
ベッドの上に座らせて、サルもその隣に座る。そしてまだ何をされるかわかっていない天馬の顔をじっくり眺めた。造形は同じなのに、天馬の瞳は澄んでいる。濁りのない無垢な青いグレーの瞳。綺麗だ。綺麗なものは、手に入れたくなる。

「…ッ!?」

手袋をスルリと取り外し、天馬の頬を包んだ。柔らかくてまだ幼いカタチがサルの手のひらに吸い付いてくる。どうしたの、と不可思議なサルの行動を見守る天馬が、サルの灰の瞳で揺れた。

「天馬…君は強いね」

「え…?」

「だってこんなに、惑わすもの」

一瞬目を見開いた天馬の深い青灰を舌でベロリと舐めとる。違和感が天馬の背筋を通って頬を包んでいたサルの手ごと突き放した。
反動でサルがベッドに倒れる。反射に思考が追いついて、天馬はハッと我に帰った。

「っ、ご、ごめんサル…!」

「…大丈夫だよ。びっくりさせちゃったね」

ゆっくり起き上がったサルを不安そうに見つめる天馬にはサルがなぜあんなことをしたのかはっきりとわかっていない。その方が幸せかもね、と一人ごちて、サルはいつも通り笑ってみせた。

「さっきのはね、親愛をこめてSSC同士がやる挨拶みたいなものだよ。だからそんな深い意味はないんだ」

「挨拶…?」

「天馬はもうすぐ帰っちゃうだろ?僕らがずっとトモダチでありますようにって、おまじないさ」

「…友だちだよ!帰ってからも、ずっと」

天馬は笑ってくれた。響く語感はサルの胸を抉って離さなくて、その痛みに気圧され自分がどんな表情をしているのかもわからなくなった。

「やっぱり僕は負けず嫌いだよ…」

天馬が自分の部屋に帰った後、サルはやり場のない重さに耐えられず灰の目から雫を零した。





【天の雨】







......................................................

思ってたよりサル様女々しくなっちゃったけどサル様もっと強かよね…
報われないサル様




prevnext


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -