I see the limitlessly near tomorrow's way(京天京)

※(天馬と京介ベストマッチの)京馬ちゃんがもし天馬と京介の子どもだったらってパラレル話
※細かい描写はありませんが京馬ちゃんが出来たときには京介いない設定です、死ネタまではいかないとは思いますが苦手な人は注意
※イナクロネップウ後(ネタバレ注意)
























広がる世界は自分が行き来している本来のものではなく擬似でもない、奇妙な感覚が肌を舐めていく。琥珀には好奇心と緊張とが見え隠れしていて、フェイは苦笑した。

「そんなに恐がらなくても大丈夫、君が未来の人間だってバレなければいいんだから」

「…それはそうだけど…」

着いてからもガラス越しの景色を眺めていたのは確かに過去だと思い聞かせるためだったのか。
ここにきて不安が収まらない彼は誰かに似て真面目で少し弱気だと思い出して、肩に手を置く。見つめられた琥珀色も彼の瞳の色そっくりだ。

「君をここに連れてきたのは僕たちだけど、この過去に来たいと願ったのは君だ。僕たちはこの過去の人たちに恩があるから連れて来てあげただけ。自分が思ったままに行動するだけさ」

「フェイも…会いに行ったんだよね」

「うん。ほんとにちょっとだけど」

「…後悔、しなかった?」

「しないよ。会ってないほうが、後悔してた」

「……いってきます」

「いってらっしゃい」



彼らと出会うことでタイムルートの変更が生じる可能性もなくはない。
だけれどフェイは、少年の思いを尊重したかった。かつての自分がダブる彼の背中を、押してやりたかったのだった。

「…頑張って、京馬」



*******


吹く風はけして冷たくはなく、穏やかに空気の香りが温かく雨宮の鼻を掠める。丸く膨らんできた桜の蕾を愛おしげに眺め、この春風の行き先を思い鳥の羽ばたく奇跡を思い、雨宮はうっそりと目を細めていた。

しかし、突然硬い音が耳に届き、思わず顔を顰めた。部屋へのノックの音で現実に引き戻される。
時空最強イレブン集めの旅が終わると同時に、その時の無理がたたって雨宮は病院に逆戻りしていたのだ。以前より症状は軽くなっているとはいえまたサッカーをやることを禁止されてしまったために、雨宮は日々ストレスを積もらせていた。
それを発散しようと気持ち良く春を感じていたところを邪魔されれば頭にくるだろう。しかし部屋へ入ってきた人物を視認した途端、不機嫌な顔が一瞬にして明るくなった。

「天馬!来てたの?」

「優一さんに太陽が寂しがってるって聞いたんだ。ほら」

天馬は何かを弧を描くように軽く投げた。両手で受け取ると、それは今雨宮が最も欲して止まなかったものだった。見慣れた白と黒。

「冬花さんにも許可とってきたよ。あんまり無理はし過ぎないようにって!」

みるみるうちに雨宮の顔が輝いた。見開いた瞳がキラキラと光を反射している。

「ありがとう天馬!!」

「中庭行こう!」

「うん!」


雨宮が感じていた通り、春の日差しと空気、そして風が心地よい。昼下がりでちょっとした運動には適温と言えるだろう。
軽めのパスを出し合いながら話す内容は自然と時空最強イレブンの旅であった出来事のことになっていった。帰ってきてから雨宮はそればかりだったが、時空を渡っての仲間集めの旅は、雨宮にとってよほど刺激的だったのだ。殆ど病室に篭りがちで外界からある程度遮断されていた頃に比べれば、あの刺激的な日々は雨宮の記憶に鮮明に残り続けるのだろう。

「あ…!」

雨宮が思わず声を出した。話に夢中になったせいで蹴り上げたボールは天馬を超えて近くの茂みに吸い込まれていった。

「ごめん天馬…!」

「大丈夫、取って来るよ」

茂みに入ったようだったから、そこまで転がって行ってはいないはず。すぐに見つかると思っていたのだが、葉っぱをかき分けて地面を見渡してもボールの影がない。
思ったより転がっていったのかもと少し先まで進んだ、その時だった。

「探し物は…これ?」

木々が風を受けて揺れた。その声は風に乗りスゥ、と天馬の中に浸透していくような、透明な声だった。
声の方を振り向くとほぼ同時、天馬の手元へちょうどいい具合にボールが飛んできて、慌てて受け止める。


「君は…」

瞬間目にして思ったのは濃紺の髪と、鋭くつり上がった澄んだ琥珀の瞳、長い睫毛に見覚えがあるということ。

「(京介、みたいだ)」

目の前の少年は口をかた引き結び、
むすりと不機嫌そうな顔をしている。そんな雰囲気もそっくりじゃないかと考えてしまっていた。
しかし少年はじっと天馬の方を見つめていて、どうかしたのかと首を捻って見つめ返す。すると少年は目が合った瞬間視線を流して口を開いた。

「今はきょ…剣城と一緒じゃないんだね」

「えっ?」

「あ、その、雷門で仲が良いってフェ…いや太陽に聞いて」

「太陽…?あ、もしかして病院の子?」

「まぁ…そんなところかな」

サッカーボールを拾ってくれたということはサッカー好きなのだろうか。太陽から目の前にいる少年のような話は聞いたことがなかったが、もしかしたら最近病院に来た子かもしれない。天馬は剣城ほど病院に訪れているわけではなかった。

「剣城なら河川敷あたりでジョギングしてるんじゃない?この後おれ
剣城と約束してるんだけど、会うなら一緒に行く?」

「いや、ちょっと気になっただけだから大丈夫。…ありがとう天馬」

「(……あ、)」

少年が少しだけ微笑んだ。といっても少し口角をあげただけだったが。しかしその不器用な笑い方が以前の京介と重なった。フィフスを裏切ってまで仲間になってくれて、やっと天馬たちといるのに慣れて来たころに自然に見せてくれるようになったぎこちない微笑み。そのときの京介と少年が重なって、凝視してしまった。急いで顔を反らす。

「…君、どこかで会った?」

天馬は何気なくそう思ったためさらりと出た言葉だったが、少年は体を強張らせた。僅かに瞳孔が開く。
左右に軽く首を振りなぜか焦ったように体を反転させ、ありがとう、と背中で言った。
そして振り返ることもなく、周りの木々にとけ込んでいったのだった。




「あ、天馬!何かあったの?遅いから心配したよ」

「ごめん太陽。…ちょっと人に会ってて…」

「人?」

「太陽、ここ最近同い年くらいでサッカー好きな子、病院に来なかった?」

「え?うーん…僕が知ってる限りではいないかなぁ」

「そっか」

どことなく剣城に似ている少年。なぜ剣城のことを聞いたのかはわからなかったし、剣城にそんな友達がいるとも聞いたことがない。
後で気付いたことだったが、初対面だというのに天馬の名前を知っていた。太陽の知り合いでないとすると太陽の名を知っているのも不可解である。
太陽が様子がおかしい天馬の横に移動し心配そうに見つめてくる。大丈夫、と笑ってみせはしたが、先ほどの少年が気になってしょうがなかった。



*******



河川敷近くのコースは万能坂のような急斜面の坂道もなく走りこみにはちょうど良い。膨らみ始めた桜の蕾を通り過ぎて、早く花が咲くとそれを眺めていられるのにと兄が言ったことを思い出した。
天馬と会うのは夕方から、その間に体を温めておこうと思い至った理由は一つではない。3人だと中庭では狭く、ただ太陽が寂しがっていたのは確かだったので、天馬が相手しているのは正解だろう。今度剣城もパス練くらいならやってやってもいいかと思っている。

目標の周回を終え、河川敷のベンチで体を休めた。冷たくもなく暑くもない気持ちのいい風が頬を撫でて行く。剣城は目を閉じた。

風の音を聞くのは好きだ。
サッカーへの道を示してくれた天馬のことを思い出せる。そしてそよ風を感じて、天馬と一緒になれる気がするからだ。閉じた瞼の裏に映るのは天馬の屈託のない笑顔。京介は何よりも、それこそサッカーと匹敵するくらい天馬の笑顔が好きだった。
思い出すだけで心があたたまる。

息が整ってきたところで剣城が目を開けようとすると、僅かに耳に届く音がした。ざ、ざ、と均一の感覚に鳴るのは聞き覚えのある、砂と砂利と、ボールを蹴り上げる音。
剣城はゆっくり目を開けた。
ベンチに座ったときに人はいなかったはずなのに、河川敷のサッカーコートに人影がある。剣城が思った通りそれはリフティングの音だった。
一目見て、上手だと確信できるほど鮮やかなボール捌きを魅せて少年はボールを蹴っていた。
暫し剣城が見入っていると少年は突然、ボールを地面につけ顔を上げた。正確にその目は剣城を見据えている。


「一緒に、サッカーやってくれない?」

「…誰だ?」

「…ただの、サッカーが好きな子どもだよ。あなたと一緒で」


話し終わると同時に少年は剣城の方へボールを高く蹴り上げていた。
剣城は空中でボールを捉えるとトラップし、少年に蹴り返した。それを少年が取りドリブルで切り込んでくる。風を切るかのように素早く正確な足の流れに一瞬ハッとして少し反応が遅れたが、軸足に力を入れフェイントをかけた。ボールを抜こうと少年が片足を後ろに下げたのを見逃さず、後ろに下げた足が触れる寸前で横からボールを突く。ズパッと鋭い音と共に少年がバランスを崩したのを見て、剣城は勝利を確信した。誰だって引力に逆らうことはできまい。
だが、そこに僅かな油断が生まれたのを少年は見逃さなかった。目付きが鋭くなる。

「なッ…!?」

少年は一度崩れかけた態勢を体を捻ることで持ち直したのだ。そしてついた足で踏ん張り剣城の足元にあったボール目掛けて思い切り蹴った。緩やかな弧を描き地面に弾むボールを、剣城は呆然として眺めた。確かに態勢は崩れていたはずなのに、並大抵のボディバランスではない。驚いている間に少年はというと、一つ息をついて先ほどまでのキツイ顔を崩していた。普段決して表情豊かではないのだろう硬そうな頬の筋肉は、今は柔らかく緩んでいた。

剣城は更に目を見張った。はにかんだその瞳の奥に称える温度が、剣城に彷彿とさせる何かを訴えていたからだ。

「(天馬…?)」

すっきりとした顔立ちとあまり変わらない表情は天馬と真逆だったが、あたたかな眼差しはまるでそのもののような。

「お前何者…」

「京介はさ、」

少年は剣城の疑問を打ち消すように遮り話しかけた。少年がここまで来て知りたかったこと。確認したかった答え。その答えが期待するものだと信じているが、どうしても本人の口から聞きたかった。

「…俺、会いたかった人がいて。その人にはもう会えないけど、俺の憧れだったんだ」

その人のことを教えてくれたのは実質もう一人の親。その人のことを聞くとものすごく大袈裟に身振り手振りを使い説明してくれた。この時のシュートがかっこよかった、あの時の連携はうまくいった、落ち込んだ時だって側でずっと支えてくれた。そう話すあの人は思いを馳せることが心底楽しいようで、伴侶を深く愛していた感情がそのまま伝わって来た。愛していたのではない、今でも愛してるのだとあんまり嬉しそうに話すから、自然に姿の見えないその人に憧れを抱いた。あるだけ録画映像と、スクラップされたサッカー雑誌の記事。そして学生時代マネージャーが撮っていたという写真の数々。似ていると語られた通り自分の面影の内に宿るその人の影が見えたような気がして、こっそりその中から一枚写真を抜き取って肌身離さず持ち歩くようになった。中学最初のHR優勝後、トロフィーを一緒に掲げにこやかに笑う親、松風天馬の隣に映る長身に藍色の髪の、自分と同じ黄金色の瞳を持つその人。ずっと会いたかった人。サッカー選手として、雷門のOBとして、親子として、憧れの人として。

『会いたい?その人に』

フェイが声をかけてきたのはそんな気持ちが胸を焦がしどうしようもなく、会えない悲しみが深くなってしまい天馬の元を飛び出した時だった。
どこに行ったってあの人には会えないことなんてわかっていたのに、行き場のなくなった虚無感を受け入れることなど、中学に上がった ばかりの少年には土台無理な話だった。

『そんなに会いたいと願うなら会えばいい。君に想いを伝える勇気があればの話だけど』

『…本当に会えるのか?あの人に』

『君がそう望むなら…ね』



「お、おい…」

あろうことか少年はその場に立ち尽くしたまま、目尻からほろほろと雫を転がしていたのだ。
剣城は混乱した。この少年が何者かもわかっていないのにいきなりサッカーを申し込まれ、今度は泣き出してしまった。けれど不思議と苛立ちは感じず、どちらかというと早く泣き止んでほしいという思いが強かった。少年が涙を流す様を眺めていることしかできず、取り敢えず落ち着かせた方がいいと考え少年の手を引きベンチに座らせ、剣城も隣につく。

「大丈夫か?」

力なく曲げられた背中を見て声をかけた。伏せられた瞳からはまだとりとめなく涙が溢れていて、静かに泣く少年を慰める方法もわからない。なぜここに来て、接触してきたのか、聞きたいことはたくさんあるというのに、気の利いた言葉の一つも出てこない己の口下手を呪うことになる。

「…何かオレが気に障ることでもしたんなら…」

「ちがう、京介のせいじゃ…」

言って、ハッと口をつぐむ。剣城は怪訝そうに眉をひそめたが無言で続きを促した。
少年は剣城から視線を逸らし、涙の跡もそのままに河川敷のサッカーコートをぼんやり眺めた。ハトが地面をつつきながら鳴いている。剣城は先ほどの少年の台詞が中途半端で終わっていることを気にした。

「会いたい人ってのは…?憧れとも言ったな。その人とは会えたのか?」

「うん。会えた。会えたから…」

こんなに言葉が出てこない。伝えたかったことは両手でたりないほどある。それなのに嗚咽を飲み込むので精一杯なのだ。フェイに言われた伝える勇気が足りなかったのか。あんなに考えて、決心してここまで大切に持ってきたことだったのに。
それだけじゃない。会えたら何を話そうだとか、何をしようだとか、考えるだけで楽しくて。けれど実際目にしたら焼け付く瞼の裏から蘇る写真や映像たちと一緒だと自覚した途端に弾けてしまった想いが溢れて止まらなくなってしまったようだ。これではいけない。なぜここに連れてきてもらったかわからなくなってしまう。
ハトから視線を剣城に戻すと、剣城は少年の頭を軽く慰めるようにポンポンと叩いた。剣城なりの優しさだろう。濃紺の髪に鋭い黄金の瞳は、とても懐かしく感じる。背が高いのに威圧感なんて感じたことはなく、優しくてきっちりとしていて、手は冷たい分心は温かいと知っている。

「…っあ、おい、!?」

頭に置かれた手をおもむろに掴んで、その掌の心地良い冷たさを思い出した時、少年、京馬はまた溢れ出す涙を止めることはできなかった。

「…なんで……、ずっと…側に居て欲しかったのに」

数羽のハトが飛び立った。羽音が
混ざり合い剣城の耳に残される。何か言わなければと思ったがやはり言葉は出てこず、ならせめてここまで何かに必死になっている少年を放っておくわけにはいかない。なぜだかそんな使命感が剣城には芽生え始めていた。

「…お前は、…」

「剣城っ!!」

掴まれた手に手を重ねようとして、突然降ってきた声に京馬と剣城はビクリと体を震わせた。
河川敷に続く道路を走り抜け階段を駆け下りた天馬は息を切らしていた。

「天馬…太陽はどうした」

「ちょっと気になることがあって、剣城がどうしてるか………、あーー!君!!」

呼吸をろくに調えることもせず剣城の隣の京馬を指差して叫ぶ。ただの驚きというよりなぜここにというニュアンスを含ませた天馬の様子に剣城は眉を潜ませた。

「どういうことだ?」

「その子、おれのとこに来て剣城はどこにいるかって聞きにきたんだ。それでおれの名前知ってて…」

「気になって追っかけてきたってことか…」

「うん、太陽には詳しく説明してないけど元々剣城と合流する約束だったしね」

天馬は言うと京馬に近づき顔をまじまじと見た。そこで赤くなってしまった目尻と腫れぼったい瞼を見つけたのだろう、困惑の色を剣城に見せた。

「なにかあったの?」

「それが…オレにもよくわからなくて」

剣城は少年のほうにチラリと視線を送ると、京馬はその意味に気づき小さく首を振った。天馬に話す気はないらしい。剣城はため息を吐いて頭を掻いた。
言うならこのタイミングしかないと、京馬は直感的にそう思った。泣いて訴えても何も伝わらないから、今伝えられるだけの想いと、聞きたかったとこを確かめるべきだと。そんなに珍しい言葉でもないのに京馬の手は汗でじっとり湿っていた。喉が引っかかる。それを飲み込んだのを合図に京馬はくっついていた唇を離した。

「京介は……天馬のこと、…」

二人を交互に見渡す。隣でまだ手を離さずにそのままにしてくれている京介と、息が整ってきて京馬の言葉を待っていてくれている天馬を。いずれ京馬の両親になる二人を。

「天馬のこと、愛してるんだよね?」

言ってしまったらなんてことのない、ふわりと京馬の胸に降りてきた言葉がさっきまでの不安と緊張をすべて攫っていってくれた。
言葉を貰った剣城はというと、一瞬では完全に意味を消化することはできなかったようで、黄金色の瞳を幼くパチパチ瞬き京馬と天馬を順番に視線を移した。

剣城より先に意味を理解した天馬は隠しきれない期待の眼差しで剣城を見つめる。剣城が素直にそのような言葉を言ってくれることなんて滅多にない。その眼差しを浴びた剣城は徐々に熱くなっていく己の全身を自覚していた。それは手を繋いでいた京馬にも伝わってきて、言葉を発せずとも自然と笑みが溢れた。あたたかくなった剣城の手をまた強く握る。剣城もそれに気づき握り返してくれた。それが決意の引き金になったのだろう。

「天馬、こっち来い」

「…うん」

ベンチの空いたスペースに天馬を座らせ、京馬とは反対の手のひらを天馬に差し出した。それを受け取ると同時、近づいた剣城の鼻筋が天馬と交わった。京馬の方には見えないように体で隠し、照れ隠しにぎゅっと目を閉じて、離れたときの潤んだ琥珀と青みがかったグレイの瞬きとが交わった。

「愛してる、天馬」
「愛してる、京介」

耳に届いた熱っぽい呼吸を手のひらに感じながら、京馬はまた泣きそうになって聞いていた。確かめてよかったと心の底から湧き出る充足感を、この先忘れることはないだろう。

「俺も愛してるよ、天馬、京介」

きっと未来に続く二人への追い風になりますように。
ぽそりと舌の上で丸まって消えた言葉がそよ風に舞い上がった。


「あ、…?」

「どうしたの京介」


手のひらの感触が消えたと思って振り返ってみると、温もりだけを残してその場にいた少年は姿を消していた。結局正体はわからずじまいだったが、どこか懐かしい思いを感じたのは二人同じだったらしく、名前だけでも聞いておくべきだったと少しなぜだか寂しく感じることに疑問を覚えたのだった。

「それにしてもすっごい京介に似てる子だったなー、目とか口とかそっくり!」

「オレに…?笑い方はお前にそっくりだったぞ」

「えー!違うって、絶対京介似だった!」

「お前だ」

「京介だってー」

「違う」

木陰からそれを見つめている京馬の肩にフェイは優しく手を置いた。それでも京馬は振り返らず、じっと二人をていた。まるで少しでも多くの時間、二人を目に焼き付けるかのように。

「もうよかったの?まだ約束の半日しか経ってないのに。剣城は元の時代に戻れば…」

「いい。天馬が言うように京介は天馬を好きだったし、京介は天馬を好きだったから。それに、」

データで焦がれるしかなかった剣城のサッカーと手のひらの温もり。どちらも今京馬の元にある。それ以上何を求めると言うのだろうか。

「天馬へのお土産もこれでできるし」

ポケットの中に隠された小型のカメラで京介と、じゃれている二人の写真をしっかり収めると、やっとフェイの方へ向き合った。

「ありがとうフェイ、連れてきてくれて」

「……帰ろっか」

「…うん」



未練がなかったわけではない。このまま京介と天馬と、一緒にいられたらとも願わなかったわけではない。だけれども未来で待っている天馬の元へ帰らないわけにはいかないし帰りたいとも思う。せめぎ合う気持ちを全て受け止めることはできないから、帰ったら天馬に話そうと考えていた。二人が愛し合っている証拠であるこの時間のことを。きっときれいなブルーグレイの瞳を細めて、全部聞いてくれる。京馬はそれを臨んでいた。












I see the limitlessly near tomorrow's way
(限りなく近い明日の道を)






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結婚式に書こうとして間に合わなかったので少し放置して書き直したもの。
補足)
・ここの京介は京馬ちゃんが出来てすぐ病死。そのため生京介を京馬ちゃんは覚えておらずフェイが寂しがってる京馬ちゃんを感じ取って連れてきてます
・なのでフェイは青年になってます。天馬も同様
・どっちがママ、パパとは京馬ちゃん区別つけてません。どっちもママでパパです。
・最初に京馬ちゃんに聞かれてフェイが行って後悔しなかったってのはゲーム最後の黄名子ちゃんのこと

もう京馬ちゃんを公式で拝んだときから二人の子どもにしか見えなくてどうにか絡ませたいと考えた結果こうなりました。
フェイちゃんと夫婦がいる時間軸全然違いますが時々遊びにきて仲良してるといいな。お粗末さまでした!




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