円堂に頼みごとをされた。
そんなに難しいことではないが、行う理由がわからない。そう聞くと円堂は特に理由はないと言い放った。相変わらずよくわからんやつだ。

「中身は何にする?」

「おかか!おかかがいい!」

「わかった」

「あ、やっぱたらこ!と、鮭!」

「欲張りだぞ」

「へへー」

塩水で手を濡らし円堂のリクエストした具材を包み込んでいく。
大きな口を開けて頬張る円堂を想像しながら作るものだから普通のものより一回りふたまわりほど大きくなってしまう。出来上がりは、食べやすいように少し固め。


「ほら、できたぞ」

「やったー!鬼道のおにぎり!!」

「手は洗ったか?」

「バッチリ!!」

でかい手のひらをガバッと開き、見せてくる円堂に中学のときマネージャーが作ってくれたおにぎりを思い出した。
おにぎりを渡すとサンキュ、と円堂は想像通り、大きな口を開けて豪快にがっつく。頬張ったその様子が中学生の頃饅頭のように丸くこぼれそうであった彼の頬を思い出させ、鬼道の顔は綻んだ。

「円堂」

「ん?なんふぁ」

「俺にもくれ」

自分で作ったものなのに、円堂が食べているとそれがとんでもなく美味しいものなのかと思えてくる。
円堂は頷き持っていたおにぎりを差し出す。そのまま一口かぶりつき、咀嚼する。美味い。

そうすると円堂がじっと鬼道の顔を見てきた。

「なんだ?」

「いや…美味そうに食べるなぁと思って」

それはお前の方だと思ったが、自分がそんな顔をしているのならそれは円堂のおにぎりだからだ。
円堂が与えてくれるものは、なんでも嬉しい。

「しかしなぜおにぎりだったんだ?イタリアンならほぼなんでも作れるぞ?」

「うん、それは知ってるけど…」

円堂にしては珍しく言葉を濁す。首を傾げると円堂は頬をかいて視線を逸らした。

「鬼道が作る料理は美味しいけど、今日は鬼道が直接握ったおにぎりが食べたかったんだ」

「直接…」

「ああ。鬼道がその場で、俺のために握ってくれたやつ」

しかし、それならば普通の料理でも円堂のために作ることに変わりない。何か違いがあるのだろうかと思ったのを感じ取ったのだろう、円堂はああ、と焦ったそうに言った。

「おにぎりなら、鬼道が俺の手から直接食べてくれると思ったから」

スプーン越しではなく鬼道の口が、近づく距離。
少し屈むと、鬼道の瞳がメガネ越しに見えるからと。

「つまり…」

「上目遣いが、可愛いから…さ?」

照れた様子ではにかむ円堂を、抱きしめない理由はなかった。









【存分に召し上がれ!】












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