5.「二人の愛があれば、世界を救えるよ!」 「…頼むから、俺を巻き込むな」
よく『愛は世界を救う』って言うじゃない?おれ最近それが本当なんじゃないかって思い始めてて。だってお前と付き合い始めてから、いやもっと前から、お前のこと好きって自覚する前から、つまりお前の存在がおれの中で大きくなりかけた時からかな。おれ、お前のことで頭いっぱいで一日中お前のことばっか、サッカーと同じかそれ以上考えてるんだ。今何してるかなーとかお前だったらどう考えるかなーとか、好きそうとかこれは嫌いそうとか。
そのときさ、すごく幸せなんだ。想像するだけで幸せになれる。それってすごいことだと思わない?サッカーしてるときももちろん楽しいしそれ以外のことは考えられなくなるけど、それとは全く別な…なんて言うんだろ、上手く言えないんだけどこう、ふわーっていうかうおー!て感じ!…え?わかんない?うーん…、胸がぎゅってなってきゅーんてなって、酷いと頭がボーッとするんだけど…なんとなくわかった?
とにかく、想うだけで幸せになれるし、急に寂しくなったりもする。人の感情って一人のヒトのためだけでこんなにたくさん笑ったり、泣きそうになったり満たされたり、怒ったり嬉しかったりするんだなぁと思ったんだ。
そう、それで『愛は世界を救う』だろ?だっておれ剣城のためだったら例えばおれがあることをして剣城が幸せになるんだったら不幸になっても別にいいと思うし。何だってできるよ。まぁ、おれが出来る範囲内の話だけど。だから世界が変なことになっても、また革命を起こすよ。それだけの力が愛にはあるってことだろ?なぁ、そう思わない?
「…振り切れてないか、その考え」
病院の待合い室で座るなり語りだしたその言い分を、頬杖をつきながら聞いていた。その持論はあまりにも幻想的で、理解できるんだかできないんだか剣城にはよくわからなくなってしまった。一つだけ言えることは天馬が『愛』という複雑な感情に酔っているらしいということだった。別に悪いことではないと思うが何分対象は自分である。
「オレはそこまでにはなれないな」
「ええーどうして?剣城おれのこと嫌いになっちゃったの?」
「そうは言ってないだろ。皆が皆そこまで恋愛に対して熱くなれるかって言われたらそうとは限らないってことだ」
天馬は少し考え込むように手を顎に当てもう片方を肘に添えた。剣城はチラリと時計を盗み見、病院でする会話じゃないだろうと兄のリハビリが早く終わるのを切に願った。
「でもおれはさ」
「あ?」
「剣城とならなんだって出来そうな気がするんだ。剣城と二人でなら、きっとなんとかできるって」
「なんとかなるはHRの決勝で懲りたんじゃないのか」
「うん。そうだけど、だからなおさら、お互いになんとかしようって気持ちが強くなったんじゃないかと思うんだ」
「それがお前の言うやつに繋がるって?」
「そ、おれたちの愛のパワー!誰にも負けないと思うよ」
興奮ぎみに発せられた天馬の声が待ち合い室に響いた。元々静かだった場所が本当の静寂に包まれる。看護士たちの視線が刺さり、何か言われる前に剣城はパッと立ち上がり苦笑いを浮かべる天馬の手を取って外に出た。
「ごめん剣城、ちょっと熱くなっちゃって」
「ったく…場所を考えろ。それとよくわからんお前の持論にオレを巻き込むな」
「ちぇー剣城のいけずー」
「どこで覚えたそんな言葉」
「前太陽が言ってた」
「あいつか…」
「なに!妬いてるの剣城妬いてるの!?」
「違ぇからいちいち反応すんじゃねぇよお前は鬱陶しい!一旦頭冷やせ!」
「おれはいつでも剣城のこと考えてるよ!」
「あーはいはいオレもだよ。…これで満足か」
「うん!」
世界救うだとか革命だとかそんな大それたこと考えるために人を好きになるわけじゃない。その好きだと思う気持ちで人を救えるなんていうことも考えるわけではなかったが、少なくともこの瞬間、自分の中の汚い感情ぐらいは帳消しにできる程度の威力は十二分にあると天馬の花が散るようなパッと咲いた笑顔を見ながら剣城はそう思ったのだった。
【愛する君へ】
(剣城照れてるの!?ねぇ照れてるんだよね照れてるんでしょ!?)
(違ぇって言ってんだろうが!!)
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天京天は表向き
天→→→←京だけど実際は
天→→←←←←京だよねっていう。
天馬と京介並んでるだけで世界は平和になると思います。
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