4.「そこに愛さえあれば、男だろうが女だろうが……この際どっちでもいい」 「うぉぉい、問題発言!」
南→倉っぽい
世の中の男は女が好きだ。なんたって柔らかくて良い匂いがして、声は高くてかわいいし服にしたって髪型にしたって、どれをとっても圧倒的に女の子の方がかわいいじゃないか。
それはこの世の基本の定理であって原理であって、男を動かす根源と言えば結局のところそこに行き着くと言っても過言ではないぐらいだと思う。
そして俺もその男の定義に外れず柔らかくてかわいい女の子が大好きだった。
そう、大好きだったはずなのだ。
「倉間」
「なんですか」
「俺は道を誤ったかもしれない」
「はい?どういうことですか」
年のわりにしても低い身の丈と褐色の肌と色素の薄い髪。サッカー部の後輩である倉間は男としても十分な条件を持っているとも言えないぐらいのやつで、実力もまだまだだし何より可愛くない。生意気なのだ。昔は憧れられてたのになと一人ごちても目の前にいるのはちっちゃい◯太郎みたいな三白眼。
俺がため息を吐き続けるだけで話を進めようとしないから、若干苛立った倉間がどうしたっていうんですと続きを催促した。
どうしたもこうしたもない。叫んでやりたいのを堪えてまたひとつため息が出る。おおよそいつもふてぶてしく嫌味を垂れ流す俺らしくもないと思ったんだろう、倉間は眉根を寄せ顔を覗き込んできた。その行為がまた俺らしくさせなくなるものだとは気づいていない。
「南沢さん、悩み事あるなら聞くぐらいだったらオレにも出来ますよ」
「そうか?」
「はい。だから言ってみてください。訳のわからないため息つかれても困るんです」
わからないのはお前だけだけど、と心の中で突っ込んでみる。けど本当に倉間は聞く気があるらしく、さっきより目が真剣に見えた。
「じゃあちょっと聞いとけ」
「はい」
「そこに愛があれば男女の違いはないと思うんだがお前はどう思う?」
「………どういうことですか」
「だから、愛さえあれば相手が男であろうと女であろうと関係ないんじゃないかって言ってるんだよ」
ここまで来たら開き直るしかない。キッパリと言い切った南沢に対して倉間は南沢の予想通りの反応を返した。
「南沢さん…ホモだったんですか!」
「お前は本っ当分かりやすいな。そんな簡単な話だったら悩んでねぇよ」
もし自分が生粋の男好きであったのなら、容姿には自信もあるしサッカーで鍛えた肉体もあるからきっと相手には困らないはずだろう。まぁそんなことは考えたくもないことであるが極端に言うと女が好きか男が好きか、はっきりしていれば踏ん切りもつけるわけだ。
しかし今は女好きだと思っていた自分の興味関心の対象は一人の男に注がれている。多数ではなく、そのたった一人に。その中途半端な線引きが、悩みの要因であった。女好きであった自分を認めていたのだから尚のこと、一番愛してしまったのが男であるという事実を受け入れがたい。
ため息の理由はそれともう一つあって、その唯一愛してしまった男を見るとそいつが好きだということの自覚が強くなってしまうことにあった。
「…で?質問の答えは?」
「え?」
「えじゃねぇよ。お前が聞くって言ったから話したんだ。お前はどうなんだ」
「話を聞くだけならって言ったじゃないスか…」
「屁理屈ごねんな」
倉間の意見を聞かなければ話した意味もない。
倉間は言い出しにくそうにボソリと切り出した。
「オレは…別にその人の好きにすればいいんじゃないかと…」
「…それで?」
「南沢さんが男好きでも女好きでも、南沢さん自体が変わるとは思えないし。びっくりはしましたけど、南沢さんの好きなようにすればいいんじゃないですか?」
無難な答えをなんとか繕ったらしい倉間は、目線を合わせないまま困ったように笑った。息をつく。
「そうだな」
倉間の頭を掴んで、思いきり押した。不意にバランスを崩した倉間はぎゃあと色気のない声を発して床に転がった。もちろん、受け身を取ることができることは実証済みだ。
「なんなんですか!ちゃんと答えましたよねオレ!?」
「ただの八つ当たりだ、気にするな」
「しますよ!!怪我したらどうするつもりだったんです」
「そんなの自分でなんとかしろよ。倒れたのはお前だろ」
「人でなし!鬼!心配して損したー!」
「なんだよ、心配してくれてたのか?」
「当たり前ですよ。でも南沢さんいつもっぽくなりましたね。大人しすぎると調子狂います…」
やりすぎは本当にムカつくんですけど、余分な一言を吐いた気がするが今日は大目にみてやろう。
随分と前途多難な道のりだ。正直言って色恋沙汰に困ったことはなかったからかえって新鮮なのかもしれない。こんなに俺の手を煩わせるなんて、光栄に思うべきじゃないか?
「まぁ、気長にがんばるさ…」
「?何を」
「さあね。自分で考えてみろよ」
前髪をかき上げ強がってみせる。さて、どうやって落としてやろうか。
【純粋無垢な君を】
最後ノンケ倉間はホモみ沢の誘惑に負けるんでしょう。狙った獲物は自分のものにしないと気がすまないホモみ沢氏。
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