3. 「畜生っバカ!愛してる!!」 「文章の前後あってないし!そして激しくノーセンキューだっ!!」
万能坂中はグレーのブレザーだって信じてる
清んだ青空の元、程よい外気と心地よい風が屋上のドアを開いた光良の団子頭を揺らしていった。
極力音が鳴らないようそっと扉を閉めると気配を極力殺して屋上の一番高いところを目指す。馬鹿は高いところが好きというが別にアイツは決して馬鹿ではないと思う。まぁ、オレほど頭が良いわけじゃないけど。
なんてどうでもいいことを考えながら鉄梯子を登り、覗くよう頭だけ出すと寝転がっている一人の体がある。
「いーそざきっ」
声を分散させないよう右手だけ口の端に添え、しかし小声で名前を呼んでみる。返事はない。
「いーそーざーきっ」
さきほどより声量を上げてみたが、規則的な腹部の動きは変わらない。それを確認してから光良は梯子を登りきり、手を頭の後ろで枕にして寝息をたてる磯崎の顔を見下ろせる位置に起こさないようそろりと移動する。頭側から覗き込んで見た磯崎はとても気持ち良さそうで、安らかな表情を見るとつい悪戯したくなってくる。くすり、と含み笑いをこぼし頬に手を伸ばした。滑らかなきめ細かい肌はあまり陽に焼けず白く、光良の手に吸い付きそうなほどだった。夏も近く日射しも強くなってきているというのに日向で昼寝なんてよくもやれるものだ、そう思えど屋上の方が人が少なくて磯崎と遊べるからいいのだが。屋上に磯崎がいるということを万能坂の生徒は大方知っているから、誰も近づこうとしない。
暫くペタペタ触っていた光良だったが、反応がないことに飽きたのか両手を頬にかけ顔を近づけた。少し開いた隙間から赤い舌が見え隠れしていることが、光良を更に興奮させた。磯崎の鼻息が唇にかかる。
「おいこら」
ふにゅり、と触れたものは柔らかいそれではなく温かいけど少し固いものだった。途端、光良の眉間に皺が寄る。
磯崎の手のひらが光良の顔を無理矢理引っ込め、嫌なものを触ったかの如く軽く振られる。
「なぁんだ、起きてたの」
「あんだけ顔捏ねくり回されりゃ誰でも起きるつーの」
よっこらせ、とジジ臭い掛け声と共に身を起こしたのを不服そうに見てくる光良を磯崎は睨み返す。お前のオモチャじゃねぇの、と言う磯崎の言い分にもしかめっ面しか出てこない。
磯崎は案外隙を見せない。さっきのように寝込みを襲おうようにも勘づかれてしまう。捏ねくり回されたからと言っていたがあれは光良が屋上に来たときからの狸寝入りなのだろう。ある程度まで好きにさせておいたのは光良の機嫌を損ねないようにと思ってのこと、その配慮が癪に触るが行き過ぎなければ許容してくれるところは大好きだ。どうでもいいと単に興味がないだけかもしれないが、年下ながらチームを仕切ることができるカリスマ性と、化身持ちでなくてもそれを補えるだけの技量とキック力、なにより普段どちらかというと落ち着いている方なのに一度試合になればどんな非道で下劣な手でも勝つためなら惜しまない異常な精神。
人に従うことをせずどちらかと言えばワンマンなプレースタイルである光良が大人しく磯崎の指示を聞くのは、磯崎がキャプテンだからではなくキャプテンが磯崎だからだ。
「寝込みは襲うんじゃねぇって前に言わなかったか?」
「えー、聞いてなァい。聞く気もないけど」
「お前も物好きだな…おれ弄って何が楽しいんだよ」
「何を楽しもうがオレの勝手でしょ?あえて言うなら磯崎の反応とか、毎回期待してんだけどォ」
「あーはいはい、期待に添えなくて悪かったな。反応求めんなら毒島あたりの方が楽しそうだと思うけど」
「毒島はクラスで顔合わせてるしじゅーぶん!だしアイツ弄るとすぐ情けねー声だすの。女々しいやつは嫌い」
「女々しいってお前みたいな女顔に言われちゃおしまいだろ」
「あー!磯崎それ禁句だってェ!」
「ふはっ、悪い悪い」
磯崎は笑うといつも刻んでいる眉間の皺がその間だけ取れる。格下相手に見下したドヤ顔と、その笑った瞬間が光良が特に好きな顔だった。さっき下降した機嫌も磯崎と話しているうちに払拭されたようだ。
「なぁ磯崎…」
「あん?」
「好き」
どうにも押さえきれなくて、口が勝手に動いていた。
我慢するのは性に合わないし、気持ちを相手に伝えるのは悪いことじゃないって思ってる。だから悪びれもしないしこういうのは言ったもん勝ちってやつだ。
案の定放心してしまった磯崎に意地の悪い笑みを溢す。
「好き。磯崎、好き!」
「お前…ついに頭がイカれたか?何言って」
「はぁ〜?こんなにオレが言ってやってんのに日本語もわかんないの?そのまんまだって!loveの方!」
その後の磯崎はそりゃあ面白いものだった。放心が直ったかと思ったら何を言えばいいのかわからなかったようで物言いたげに口をパクパクし、渋く歪めた顔に光良が爆笑し始めてしまい笑うんじゃないと拳が出た。
腕力も結構あるらしい磯崎のパンチは光良の天辺にクリーンヒットし痛みが襲った頭を抱えた光良の頭上で、磯崎の声が降ってきた。
「ばっかじゃねぇの…」
それは磯崎らしからぬ語尾が消えそうなか細い声で、痛みが引かない頭に手を置いたままガバリと顔を上げ、思わず息を止めた。
真っ赤。
見事に染まった顔を隠そうと火照る頬を腕で覆おうとするが隠しきれず、間から出た耳まで赤いことを光良に見せてしまっている。
「磯崎ィ…」
「見んなって…!これは…さっきのお前の言葉のせいじゃ」
ない、と言い終わる前に光良が腕のバリケードを掴んでいた。
かち合った瞳と瞳。
「…畜生!!」
突然荒げた口調に磯崎がビクリと肩を揺らす。
「畜生…ばか……愛してる」
磯崎の腕を持ったまま顔が上げれなくなった光良を、磯崎はどうすることできない。
せめてこの間に、熱が治まりますように。
「勝手に言ってろアホが…」
【罵倒を君へ】
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なんという告白大会…
光磯コンビ大好きなのに難しいです
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